内省する力

杉山登志郎発達障害の子どもたち』講談社現代新書,2007年


発達障害の子どもをもつ親が本来知っておくべきことがじゅうぶんに伝わっていないことに問題を感じた,経験豊かな著者の手による好著。
実例と理論を要領よく取り合わせ,発達障害の子ども(とその親)が直面する課題に対して,見通しと心構えを教えてくれる。
発達障害の子どもの幸福をいかに実現するかという著者の使命感が記述の端々からうかがわれることが,本書にさらに好ましい印象を与える。

以下の引用は,そうした本書のモチーフとはひとまず切り離される,私自身の問題関心と共振する部分からである。

「そだちの大問題である子ども虐待の児童において,正常知能を示すものはまれで,知能検査をしてみると,その大半が境界知能を呈する。さらに・・軽度発達障害および子ども虐待と密接に関係する青少年の大問題である少年非行の事例において,これまた正常知能を示すものはまれで,ことごとく境界知能を示す。非行の事例においては,学習の遅れを伴う者が多く,特に国語力の不足が内省力の不足に直結し,悩みを保持することができず非行に走りやすい傾向を生むという状況をしばしば認める。」(60頁)

何らかの仕方で問題を抱え込んだ子どもは,その問題を解決するための方策がとられないと,次の段階でも新たな問題を抱えることになる。だから,子どもが自身の人生の問題に対処していけるようになるには,それぞれの子どもの状態に即した学習が不可欠なのである。
特に軽度発達障害の子どもたちは,知能を構成する因子間のばらつきが激しいために,知能指数が低めに出て,境界知能に分類される傾向がある。しかし,知能指数は固定的なものではない。それぞれの知能の因子間のばらつきに配慮した学習環境を整備することが大切だ。
著者は,あらましそのように述べる。

もちろんこの学習能力,特に国語力というものを,テストの問題が解けることと同じものと考える必要はない,あるいは,そう考えてはならない,のだろう。問題を解くことは,悩みを保持することと対極にあるから。