2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

子どもの生きる場(1)

矢野智司「子どもの遊び体験における想像的瞬間─体験を反復する創造性のコミュニケーション論」,佐藤学・今井康雄編『子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践』東京大学出版会,2003年 教育学者である矢野智司氏の論文を読むのは,これがはじめて…

私とは何か

上田閑照『私とは何か』岩波新書,2000年 我が大学でもいよいよ本日から2学期の授業が始まりました。 本ブログもいままで以上に学生さん向けの書籍紹介という性格を強くするものと思います。どうかよろしく。さて,この日記でもたびたび紹介している本書の…

別世界の経験

上田閑照『経験と場所』岩波現代文庫,2007年 長田弘『読書からはじまる』NHKライブラリー,2006年 恐れ多い言い方かもしれないが,上田閑照氏の著作を読むと,自分が何か考えようとしていることを,先に形にして,ほら,お前はこういうことを言いたいの…

感覚を磨く

見田宗介『現代日本の感覚と思想』講談社学術文庫,1995年 本書は,二部にわかれる。 第一部「現代日本の感覚変容─夢の時代と虚構の時代」は,1990年,東京都写真美術館の開館記念となるオープニング展「東京─都市の視線」のためのカタログ解説として書かれ…

生きるかなしみ

山田太一編『生きるかなしみ』ちくま文庫,1995年 二日ばかり放っておいたら,トラックバックで悪戯をされました。そこで,トラックバック,ならびにコメント欄を閉鎖しました。不愉快な画面を御覧になってしまった方にお詫び申し上げます。それはさておき・…

世界をつなぐ(2)

ジンメル「橋と扉」,『ジンメル・コレクション』(鈴木直訳)ちくま学芸文庫,1999年 昨日に続いてジンメルを取り上げる。 「橋と扉」は1909年のエセーであるが,「取っ手」(9月18日参照)と同様の観点から,標題となっている物質的なものの両義的意味…

世界をつなぐ(1)

ジンメル「取っ手」,『ジンメル・コレクション』(鈴木直訳)ちくま学芸文庫,1999年 ジンメル(1858-1918)というユダヤ人社会学者は,実に繊細な視線をとおして,豊穣な洞察を残した。 今日紹介する「取っ手」は,百年以上も前になる1905年のエセーである…

自閉症者のことば

ドナ・ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』(河野万里子訳)新潮文庫,1993年 本書の著者ドナ・ウィリアムズは,1963年,オーストラリアに生まれた。本書(原題は Nobody, Nowhere)を1992年に発表し,カバーの紹介によれば,「世界で初めて自閉症の精神世…

正しく考えること─幸福論(2)

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 昨日(9月13日)に続いて,アランの『幸福論』より。 アランは,1868年にモルターニュ・オ・ペルシェに生まれ,1951年にル・ヴェジネで亡くなった。四十年間,リセ(高等中学校)の哲学教師を務め,シモ…

幸福論(1)

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 今週はいろいろと忙しく,ブログを続ける難しさを感じました。 8月のように更新することはできなくなると思いますが,細く長く続けていきたいと考えていますので,ときどきのぞいてもらえるとうれしく思い…

指導者像の難しさ

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) あまり話題にしたくはないのだが,しばしばメディアで取り上げられる首相や知事の言動をみていると,リーダーをいかに育てるのかという課題は,私たちの社会…

神話的英雄の形姿

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) 古層の共同体意識は,神々や英雄の舞台である。 日常的な<はなし>の世界(9月6日参照)では,あまり表だってあらわれることのないこの神話的意識の叙述の…

<かたり>について(2)

坂部恵『かたり 物語の文法』ちくま学芸文庫,2008年(弘文堂,1990年) 「かたり」が問題となるのは,それが人間の大凡の営みを包括する拡がりをもっているからである(本書27頁を参照)。 そこで著者は,主として「はなし」と対比しながら,「かたり」の特…

<かたり>について(1)

坂部恵『かたり 物語の文法』ちくま学芸文庫,2008年(弘文堂,1990年) ここ数日(9月2日,3日)話題にしてきた「物語」の問題は,現代の人文科学においても愁眉の課題である。その一端を,哲学者の文章から確認しておきたい。 「言語をたんに事実の描写…

物語りはじめるために

古井由吉『始まりの言葉』岩波書店,2007年 昨日(9月2日)の記述は,権力者に対する記述としてはいかにも甘いものだったかもしれないと,反省している。 言いたいことにかわりはないのだが,話題にした人物は,希望をまったく失ってしまったというわけで…

言葉をとりもどす

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書,2006年 著者によると,現代は,待つことができない社会である,という。 たしかに,だれも待つことができないようだ。昨日の福田首相の退陣表明も,もう少し待つことができたのなら,と思うのだが・・・ 首相に対す…

崩壊した共和国

脇圭平『知識人と政治 ドイツ・1914〜1933』岩波新書,1973年 夜,ふとテレビを付けると,福田総理大臣が辞任を表明したとのニュース。 日本という国の政治の,深い深いところで進行している病のあらわれのような気がする。 責任を負った特定の政党や政治家…