history

近代による超克

ハルトゥーニアン『近代による超克─戦間期日本の歴史・文化・共同体』梅森直之訳、岩波書店、2007年 だいぶ日にちが経ってしまったが、前回(11月11日)同様、「個人」と「個人を超えるもの」について。 日本思想に関するこの書物を読むと、自分自身にも…

近代日本と仏教

末木文美士『近代日本と仏教』トランスビュー、2004年 末木文美士氏は、1949年生まれ、東京大学大学院人文科学研究科を経て、現在は同研究科教授。仏教学、日本思想史を専門とする。多数の著作があり、この日記でも、『解体する言葉と世界』を紹介したことが…

ギリシア哲学と宗教

コルネリア・J・ド・フォーゲル『ギリシア哲学と宗教』(藤沢令夫,稲垣良典,加藤信朗他訳)筑摩書房,1969年 *生活のリズムを壊し,だいぶご無沙汰してしまいました。なかなかペースのつかめない日々を送っていますが,なんとか継続していこうと思ってい…

政治のことば(2)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 前回(4月6日)に続いて,上の書物から。 著者も記すように,古くから政治の「政」はマツリゴトと訓まれてきた。マツリゴトは「祭事」を連想させる。ひいては,現代においても,政治はマツリゴ…

ナチ神話

フィリップ・ラクー=ラバルト,ジャン=リュック・ナンシー『ナチ神話』(守中高明訳)松籟社,2002年 前回紹介したケネス・バークの神話論(3月21日)は,神話に関する議論として珍しい種類のものではないかと思う。学問の営みは,神話がいかに危険なも…

社会の医者

竹内好「インテリ論」1951年,「教養主義について」1949年,『竹内好全集第6巻』筑摩書房,1980年 加藤周一,ノーマ・フィールド,徐京植『教養の再生のために 危機の時代の想像力』影書房,2005年 携わっていた長期の仕事に,ようやく先週,区切りをつける…

世界史の牢獄

彌永信美『幻想の東洋 オリエンタリズムの系譜』上下,ちくま学芸文庫,2005年(青土社,新装版,1996年) 前回(2月15日)も取り上げた彌永氏の著者から。ただし,この浩瀚な書物をこの小さな日記でうまく取り扱うのは困難なので,下巻に収められた付論「<…

思想の原罪性

彌永信美『歴史という牢獄 ものたちの空間へ』青土社,1988年 前回(2月8日)少しふれたように,研究室の引っ越し準備のために,何かしら生活が落ち着かず,この日記も放置してしまいました。 少し期間をおいてしまうと,なかなか本の紹介モードになることが…

反西洋思想(2)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 11月12日に引き続いて,本書から。 前回は,日本人にも比較的わかりやすい「反西洋思想」の例を取り上げた。 今日は,わかりにくいものを取り上げる。第4章の「神の怒り」からで…

反西洋思想(1)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 本書のカバーには次のような紹介がある。「ナチズム,毛沢東思想,「近代の超克」,イスラム原理主義・・・。「西洋」を敵視して戦いを促す思想は,昔から絶えることがない。西洋…

ユダとは誰か

荒井献『ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』岩波書店,2007年 一昨日,太宰治の『駈込み訴え』を取り上げて「「裏切り者」ユダの独白形式をとった『駈込み訴え』(ちくま文庫・太宰治全集では3巻に所収)は,最近のユダ研究によれ…

ユダヤ人・イエスとキリスト・イエス

ヤロスラフ・ペリカン『イエス像の二千年』(小田垣雅也訳)講談社学術文庫,1998年(原本は『文化史の中のイエス』新地書房,1991年。原著は1985年) 1990年の日付のある訳者あとがきによると,著者ペリカンは,1923年生まれで,イェール大学歴史学部の Ste…

アレントと政治

ハンナ・アーレント(ウルズラ・ルッツ編)『政治とは何か』(佐藤和夫訳)岩波書店,2004年 10月8日の日記に,近いうちにハンナ・アレント(アーレントとも表記)のことを取り上げたいといっておきながら,取り上げることができないできたが,一昨日の古…

民主主義と教養

M. I. フィンリー『民主主義 古代と現代』(柴田平三郎訳)講談社学術文庫,2007年 フィンリーは,は1912年にニューヨークに生まれ,コロンビア大学で博士号を取得した古代ギリシア史家。1954年にイギリスに渡り,のち帰化する。イギリスへの移住は,マッカ…

教養と社会化

作田啓一「社会化と教養小説」,作田啓一『仮構の感動 人間学の探究』筑摩書房,1990年 作田啓一氏は,1922年に生まれ,京都大学文学部哲学科(社会学専攻)を経て,本書刊行時は甲南女子大学教授。主著の『価値の社会学』(1972年)は,岩波モダンクラ…

指導者像の難しさ

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) あまり話題にしたくはないのだが,しばしばメディアで取り上げられる首相や知事の言動をみていると,リーダーをいかに育てるのかという課題は,私たちの社会…

神話的英雄の形姿

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) 古層の共同体意識は,神々や英雄の舞台である。 日常的な<はなし>の世界(9月6日参照)では,あまり表だってあらわれることのないこの神話的意識の叙述の…

物語りはじめるために

古井由吉『始まりの言葉』岩波書店,2007年 昨日(9月2日)の記述は,権力者に対する記述としてはいかにも甘いものだったかもしれないと,反省している。 言いたいことにかわりはないのだが,話題にした人物は,希望をまったく失ってしまったというわけで…

崩壊した共和国

脇圭平『知識人と政治 ドイツ・1914〜1933』岩波新書,1973年 夜,ふとテレビを付けると,福田総理大臣が辞任を表明したとのニュース。 日本という国の政治の,深い深いところで進行している病のあらわれのような気がする。 責任を負った特定の政党や政治家…

回帰する歴史

山口昌男『文化の詩学 I』岩波現代文庫,2002年(岩波書店,1983年) 歴史に対する反省は,現代思想における一つの焦点であると思う。いろんな角度から論じることができるが,昨日(8月30日)に引き続いて,本書のなかから,「I オクタビオ・パスと歴史の…

歴史と性格

山口昌男『文化の詩学 I』岩波現代文庫,2002年(岩波書店,1983年) 山口昌男氏の文章については,すでに7月27,28日に『文化と両義性』をとりあげた。 文化人類学の領域で山口氏が現在どのように評価されているのか,詳しくは知らない。私が学生の頃…

中心と周縁

山口昌男『文化と両義性』岩波書店,1975年 昨日に引き続き,本書から引用する。人文社会科学では,ひところよく言及された人が,別にその理論が明確に否定されたりすることもなしに,ある時期からあまり言及も注目もされなくなるようなことがある。 本書の…

混沌と秩序

山口昌男『文化と両義性』岩波書店,1975年 この世界を生きるということは,一方では,混沌を秩序化するということであり,他方では,既成の秩序を超え出るということなのだと思う。 秩序化はさまざまな水準でおこなわれ,そこからの超出もさまざまな場面で…

精神病理学における<歴史不在> その3

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 さらに本書から,見逃しえぬ思想史上の事例を二つ,引いておきたい。 思想や哲学の専門家などよりも,それ以外の専門をしっかりと身に付けた人の方が,しっ…

精神病理学における<歴史不在> その2

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 本書には,見逃すことのできない史実の記述が散らばっている。いくつか紹介しておきたい。 「[ドイツの精神医学者で,現代精神医学の基礎を造りあげた]エ…

精神病理学における<歴史不在>

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 個人的なことになるが,博士論文でディルタイという哲学者・歴史家を論じた。この思想家を研究することは,たやすい仕事ではなく,いまでも出版された博士…