2008-01-01から1年間の記事一覧

子どもの本

ぶん:サリー・ウィットマン,え:カレン・ガンダーシーマー 『とっときのとっかえっこ』谷川俊太郎訳,童話館出版,1995年 今年,最後に紹介したい本は,絵本である。 絵本作家の五味太郎氏の『絵本をよんでみる』(平凡社ライブラリー)を紹介したときの日…

反貧困─余話

中野好夫『スウィフト考』岩波新書,1969年 昨日,湯浅誠氏の著作を紹介した後で,あらためて周囲を見渡すと,関連するニュースや記事があふれていることに気がついた。 アエラ最新刊(08.12.29-09.1.5 No.1)の高村薫氏の連載エセー「平成雑記帳」は,終身…

反貧困

湯浅誠『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』岩波新書,2008年 この日記は,できるだけ著作の言葉そのものにふれて,興味を持った本があれば,実際に手にとって読んでもらえたら,と思ってはじめたものです。 ただ,引用だけにすると,問題が生じる可能性も…

働くことの希望

玄田有史『働く過剰 大人のための若者読本』NTT出版,2005年 数年前のことである。大学院ゼミに,社会人経験のある学部の学生が参加してくれた。その学生が,ゼミ終了日の打ち上げのときに,私の不用意な言葉がきっかけだったと思うのだが,いまの大学生…

スコレーを生きる

ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』稲垣良典訳,講談社学術文庫,1988年[原著,1965年] 師走の忙しさの中で,何のために仕事をしているのだろうか,という思いがしばしば浮かんでくる。すると,昨今の経済状況を考えてみれば仕事があるだけましではないか,と…

「発達障害」の意味すること

松本雅彦・高岡健編『発達障害という記号』批評社,2008年 11月23日にジンメルのエセーを紹介したなかで,発達障害についてふれた。 そこに書いたことの一部を引用する。「余談だが,このブログでも取り上げたことのある「発達障害」という概念も・・,…

個人をつくるもの(2)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 「忘恩の近代的個人主義はいかなる運命をたどるのか」などと,昨日は大それたことを書いてしまった。もちろん,近代的個人主義を否定しようなどと思っているのではなく,個人主義の中身(それ…

個人をつくるもの(1)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 作田啓一氏の文章は,10月19日に『仮構の感動』から「社会化と教養」を取り上げたことがある。本書もそこでふれたテーマに関連する著作であり,文学的素材と社会学的分析を結びつけ,近代…

不機嫌なとき

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 バスを待つのがとても苦手だ。 予定の時刻をすぎてもバスがこない。あとどのくらい待てばバスはくるのか,考えても判らないことを考え,あぁ,バスなど待たなければよかった,別の路線のバスにすればよかっ…

象徴としての神話と言葉

カッシーラー『人間』宮城音彌訳,岩波書店,1953年 ドイツの新カント派系の哲学者として知られるエルンスト・カッシーラーについて,小さな文章を書く機会があったので,その関連で,『人間』を紹介したい。この本については,数ヶ月前(8月17日,18日…

都会と精神,および発達障害

ジンメル「大都会と精神生活」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 一昨日に引き続き,ジンメルの1913年(第一次世界大戦の直前!)のエセーを紹介する。 ところで,ジンメルという社会学者,十分に説明していないことに気…

廃墟にみえるもの

ジンメル「廃墟」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 拘束や締切のある仕事がつづき,なかなか日記を更新できませんでした。 師走の12月は,昔も今も,たしかに走るような忙しさ。年明けの2ヶ月もそれはかわらず,3月…

反西洋思想(2)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 11月12日に引き続いて,本書から。 前回は,日本人にも比較的わかりやすい「反西洋思想」の例を取り上げた。 今日は,わかりにくいものを取り上げる。第4章の「神の怒り」からで…

反西洋思想(1)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 本書のカバーには次のような紹介がある。「ナチズム,毛沢東思想,「近代の超克」,イスラム原理主義・・・。「西洋」を敵視して戦いを促す思想は,昔から絶えることがない。西洋…

病める神話・生ける神話(2)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 上記の本の紹介を続けたい。 残されていたのは,個人神話の虚言の有する創造性。つまり,c「虚構性や虚偽性のなかに秘められている創造性」を生み出すc’「生きた神話」である。 …

病める神話・生ける神話(1)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 著者は,1953年生まれの精神医療の臨床家である。東京医科歯科大学医学部卒業後,病院の院長を歴任した後,スイスのユング研究所に留学して,ユング派分析家資格を取得し,現在…

ユダとは誰か

荒井献『ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』岩波書店,2007年 一昨日,太宰治の『駈込み訴え』を取り上げて「「裏切り者」ユダの独白形式をとった『駈込み訴え』(ちくま文庫・太宰治全集では3巻に所収)は,最近のユダ研究によれ…

ユダヤ人・イエスとキリスト・イエス

ヤロスラフ・ペリカン『イエス像の二千年』(小田垣雅也訳)講談社学術文庫,1998年(原本は『文化史の中のイエス』新地書房,1991年。原著は1985年) 1990年の日付のある訳者あとがきによると,著者ペリカンは,1923年生まれで,イェール大学歴史学部の Ste…

人生のゲーム

高田康成『キケロ ヨーロッパの知的伝統』岩波新書,1999年 この日記のなかで,しばしば「遊び」を話題にしてきた。 実用的なもの・実学的なものだけに目が向きがちな世の風潮への反発なのだと思う。 注意して欲しいことだが,実用的・実学的なものと「遊び…

ゲームの仕事

長嶋有『パラレル』文春文庫,2007年 先週後半から体調を崩し,高熱と痛みをベッドで耐えた。 39度まで熱を出すと,ふだんならきつく感じる37度代の熱でも,楽に感じる。しかし,そういうときに動いて病状を悪化させることもあるというので,ずっと安静…

アレントと政治

ハンナ・アーレント(ウルズラ・ルッツ編)『政治とは何か』(佐藤和夫訳)岩波書店,2004年 10月8日の日記に,近いうちにハンナ・アレント(アーレントとも表記)のことを取り上げたいといっておきながら,取り上げることができないできたが,一昨日の古…

民主主義と教養

M. I. フィンリー『民主主義 古代と現代』(柴田平三郎訳)講談社学術文庫,2007年 フィンリーは,は1912年にニューヨークに生まれ,コロンビア大学で博士号を取得した古代ギリシア史家。1954年にイギリスに渡り,のち帰化する。イギリスへの移住は,マッカ…

教養と社会化

作田啓一「社会化と教養小説」,作田啓一『仮構の感動 人間学の探究』筑摩書房,1990年 作田啓一氏は,1922年に生まれ,京都大学文学部哲学科(社会学専攻)を経て,本書刊行時は甲南女子大学教授。主著の『価値の社会学』(1972年)は,岩波モダンクラ…

ベイトソン『精神の生態学』より(3)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 ベイトソンの理論において,サイバネティックスと並んでパラドックスのコミュニケーションを支える論理階型論について見ていきたい。 論理階型論は,そもそも数学者ラッセ…

ベイトソン『精神の生態学』より(2)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 昨日,たまたまアンジェラ・アキの「手紙」という歌を聴いた。そのなかに「人生のすべてに意味がある」という歌詞があった。 こうした歌詞を,「説教臭い」と感じる人もい…

ベイトソン『精神の生態学』より(1)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 9月30日,10月1日に取り上げた教育学者・矢野智司氏の考え方や方法の背後には,グレゴリー・ベイトソンがいる。 ベイトソンとは誰か。手元にある『人間学命題集』(…

思考と文体

斎藤美奈子『誤読日記』朝日新聞社,2005年 斎藤美奈子氏の文体は,いろいろと考えさせられる。 例えば,『モダンガール論』(文春文庫)の文体は,歴史学の標準的な文体とは大いに異なるけれども,斎藤さん(冒頭,斎藤美奈子氏と書いたのだが,斎藤氏とい…

国際政治という場

中西寛『国際政治とは何か 地球社会における人間と秩序』中公新書,2003年 日本人の性格はしばしば「島国根性」とよばれるが,それは自分の生きる日本列島という場が同時にまた世界(いわゆる一般的な国々の集まりとしての世界。後で引用するアレントの「世…

経済と人間(2)

岩井克人『資本主義を語る』ちくま学芸文庫,1997年 一昨日に引き続き,岩井克人氏の一般向けの書物から。 人間は,いかに自分が経済に縁遠いと考えても,経済と無関係に生きることはできない。しかし,だからといって,すべての人間的世界を,経済をモデル…

貨幣と人間(1)

岩井克人・三浦雅士(聞き手)『資本主義から市民主義へ』新書館,2006年 いままで,経済に関する本は取り上げてこなかった。 苦手な分野で,何を取り上げるべきか思いつかなかったからだけれども,しかし,前回(10月2日)の末尾でもふれたように,この…