religion

21世紀のHumanities

昨日、私の所属する大学院が主催する「21世紀のHumanities」というタイトルのシンポジウムに、シンポジストの一人として参加した。時間がたりなくなり、結局、自己紹介の後は、フロアからの質問一件に対する回答しかできず、シンポジストとしては面目ない次…

有色の聖母を見る(21世紀のHumanities 続き)

「なぜ、クリスマスを祝うの?」 「お祭りだから。」 「一体、何のお祭り?」 「キリストが誕生したことの。」 「なぜキリストが生まれたことを祝うの?」 「救い主だから。」 「あなたはキリストが救い主だと信じているの?」 「いや、信じているわけではな…

共同性を維持する現代の社会現象—その2

3月になりました。 悲喜こもごもの季節ですが、新しい年度へのよい準備のときとなりますように。さて、前回と同様、樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析 なぜ伝統や文化が求められるのか』(光文社新書、2007年)の第四章「共同性を維持する現代の社会現…

共同性を維持する現代の社会現象—その1

総務省は25日、2010年10月実施の国勢調査の速報値を公表した。朝日新聞は1世帯あたりの平均人数がはじめて2.5人を下回った(約2.46人)ことに注目し、「孤族化」の傾向が表れたと報道した。 朝日新聞が「孤族」というのに対して、NHKは「無縁社会」とい…

ヒンドゥー教の人間学

マドレーヌ・ビアルドー『ヒンドゥー教の<人間学>』講談社、2010年(原著旧版1981年、新版1995年) 前期の途中からこのブログを書くことどころか、見ることさえできなくなりました。 毎年毎年、坂を転がり落ちる雪だるまのように仕事が増えていくのを感じ…

アウシュヴィッツ以後の神

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』品川哲彦訳、法政大学出版局、2009年 イスラエルの神は熱情の神である。イスラエルを愛する民として選んだ神は、イスラエルの民の不忠実に対して責めを与え、預言者を遣わして神への復帰をよびかける。旧約聖書…

近代日本と仏教

末木文美士『近代日本と仏教』トランスビュー、2004年 末木文美士氏は、1949年生まれ、東京大学大学院人文科学研究科を経て、現在は同研究科教授。仏教学、日本思想史を専門とする。多数の著作があり、この日記でも、『解体する言葉と世界』を紹介したことが…

山頭火と放哉

上田閑照『ことばの実存 禅と文学』筑摩書房、1997年 種田山頭火(1882[明治15]年〜1940[昭和15])と尾崎放哉(1885[明治18]年〜1926[大正15]年)は由律俳句を代表する俳人として有名である。 しかし、その句と較べて、二人の生涯についてはあま…

モダニストとしての空海

渡辺照宏・宮坂宥勝『沙門空海』ちくま学芸文庫、1993年(筑摩叢書版、1967年) 竹内信夫『空海入門 弘仁のモダニスト』ちくま新書、1997年 ある事情から、空海に関心をもち、幾つか本を買い求めた。 空海に関しては、司馬遼太郎の『空海の風景』しか読んだ…

日本人の宗教性

山折哲雄『近代日本人の宗教意識』岩波書店、1996年 「人の生くるはパンのみに由るにあらず、神の口より出づる凡ての言に由る」 これは、荒野において四十日四十夜断食し、悪魔に試みられたイエスのことばとして、よく知られている(新約聖書マタイによる福…

偶像崇拝

M.ハルバータム/A.マルガリート『偶像崇拝 その禁止のメカニズム』大平章訳、法政大学出版局、2007年 だいぶ日が経ってしまったけれども、前回の日記では、想像力が人間にとってきわめて重要な精神の働きで、子どもの成長にとっても不可欠らしい、とい…

創造と愛

坂口ふみ『信の構造 キリスト教の愛の教理とそのゆくえ』岩波書店、2008年 西洋思想史の授業で、授業の最後に学生の感想等を書いてもらい、終了時に提出してもらうことにしている。 先日の、創世記の第1章を読んだ授業の後では、「神が御自分にかたどって人…

宗教の倒錯

上村静『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』岩波書店、2008年 本書の冒頭に掲げられた問いは、現代の多くの日本人が抱く疑問を表現したものだと思われる。 「<宗教は人を幸せにするためにあるはずなのに、なにゆえその同じ宗教が宗教の名のもとに平…

人間は被造物

田川建三『キリスト教思想への招待』勁草書房、2004年 現代においてとてつもなく出来る学者、といって思い当たる人は、不勉強のせいもあるが、それほどいない。しかし、この本の著者は、まぎれもなくその一人だ。 これまでの田川氏の著作になじんできた…

終末のシンボル的意義

武田泰淳『滅亡について 他三十篇』川西政明編,岩波文庫,1992年 大学は今,春休み。 理系の世界ではこの時期,学会が多いと聞いたことがある。文系の私の関わっている学会でも3月末に支部会が開かれる。そうしたものに関わっている大学の教員(当然だが,…

シンボルと宗教

ケネス・バーク『文学形式の哲学 象徴的行動の研究』(森常治訳)国文社,1974年(原著,1941年) ケネス・バークは1897年アメリカ,ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれの文学批評家。哲学,言語学,社会学などの学問領域をこえた独創的な批評体系の構築を…

脳と宗教

養老孟司『カミとヒトの解剖学』ちくま学芸文庫,2002年,(法蔵館,1992年) 専門の異なる人が,自分の関心ある研究テーマについて述べているのを読むのは,たいへん興味深い。しかも,それがまったく専門の異なる著名人だと,なおありがたい。自分の考えて…

雀よりも価値がある

新約聖書『ルカによる福音書』第12章 (聖書には,日本聖書協会「新共同訳」「口語訳」など各種の翻訳がある) 年末年始,様々に飛び交うニュースを聴いては,不安や恐ればかりを大きくさせてしまったというようなことはないだろうか。 小泉政権下で構造改…

反西洋思想(2)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 11月12日に引き続いて,本書から。 前回は,日本人にも比較的わかりやすい「反西洋思想」の例を取り上げた。 今日は,わかりにくいものを取り上げる。第4章の「神の怒り」からで…

反西洋思想(1)

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』(堀田江里訳)新潮新書,2006年 本書のカバーには次のような紹介がある。「ナチズム,毛沢東思想,「近代の超克」,イスラム原理主義・・・。「西洋」を敵視して戦いを促す思想は,昔から絶えることがない。西洋…

病める神話・生ける神話(2)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 上記の本の紹介を続けたい。 残されていたのは,個人神話の虚言の有する創造性。つまり,c「虚構性や虚偽性のなかに秘められている創造性」を生み出すc’「生きた神話」である。 …

病める神話・生ける神話(1)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 著者は,1953年生まれの精神医療の臨床家である。東京医科歯科大学医学部卒業後,病院の院長を歴任した後,スイスのユング研究所に留学して,ユング派分析家資格を取得し,現在…

ユダとは誰か

荒井献『ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』岩波書店,2007年 一昨日,太宰治の『駈込み訴え』を取り上げて「「裏切り者」ユダの独白形式をとった『駈込み訴え』(ちくま文庫・太宰治全集では3巻に所収)は,最近のユダ研究によれ…

ユダヤ人・イエスとキリスト・イエス

ヤロスラフ・ペリカン『イエス像の二千年』(小田垣雅也訳)講談社学術文庫,1998年(原本は『文化史の中のイエス』新地書房,1991年。原著は1985年) 1990年の日付のある訳者あとがきによると,著者ペリカンは,1923年生まれで,イェール大学歴史学部の Ste…

伝統とナショナリズム

アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』加藤節監訳,岩波書店,2000年 63回目の終戦記念日。ナショナリズムは,民衆の情念を基盤とするかのような装いのもとで,つまり,国家による組織的虚構として,成り立っている。 もちろん,こういうからと言っ…

意味なき死の意味

宮本久雄・大貫隆・山本巍『受難の意味 アブラハム・イエス・パウロ』東京大学出版会,2006年 長崎・原爆の日である。本書の「はじめに」では,受難の意味を問う理由について,「それは凡そ他者の受難や抹殺の象徴である「アウシュヴィッツ以後」の時代にわ…

死して有る生き方

エックハルト『エックハルト説教集』(田島照久編訳)岩波文庫,1990年 マイスター・エックハルト(Meister Eckhart)は,1260年頃,中部ドイツの貴族あるいは騎士の家系に生を受けた。ドミニコ会に入り,各地で教育を受け,最晩年のアルベルトゥス・マグヌス…

人間存在の二重性

上田閑照『実存と虚存』ちくま学芸文庫,1999年 ここ数日問題にしている,人間存在(とりわけ,言葉)の二重性のもっともわかりやすい例は,宗教かもしれない。ただし,宗教それ自体,また宗教学も,その二重性の成り立ちを理論的に語ることは少ないようであ…