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国立大学から人文社会系学部がなくなってしまう(?)

大学をめぐる出来事がニュースで扱われるようになってきた。 でも、大学に関する出来事(文科省の方針等)がニュースになって伝えられるころには、すでに方針は既定であるため、メディアを通した公共的な議論が大学政策に反映されるということにはならない。…

社会とは何か

故郷が福島であることもあり、福島第一原子力発電所の危機が気になってならない。 震災・原発事故情報を集めようと、はじめてツィッターにも登録し、各所から情報を手に入れるようにしている。「原発ムラ」と呼ばれる、電力会社、研究者、官僚、政治家の利害…

人間形成にとって共同体とは何か─その2

大震災に遭われた皆様に、謹んでお見舞いを申し上げます。 そして今、被曝の不安にある故郷の皆様に、重ねてお見舞い申し上げます。 どうか被害が最小限に留まることを心より祈っております。それにしても、一連の震災報道において明らかになりつつある、こ…

人間形成にとって共同体とは何か—その1

前回、「幻想、他者、移行対象を豊かにする仕組みづくり」のための理論の紹介を予告した。が、取り上げた著作(樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析』光文社、2007年)をよく読んでみると、そのための具体的な記述は少ない。 ちょっと、勘違いをしていたよ…

共同性を維持する現代の社会現象—その2

3月になりました。 悲喜こもごもの季節ですが、新しい年度へのよい準備のときとなりますように。さて、前回と同様、樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析 なぜ伝統や文化が求められるのか』(光文社新書、2007年)の第四章「共同性を維持する現代の社会現…

共同性を維持する現代の社会現象—その1

総務省は25日、2010年10月実施の国勢調査の速報値を公表した。朝日新聞は1世帯あたりの平均人数がはじめて2.5人を下回った(約2.46人)ことに注目し、「孤族化」の傾向が表れたと報道した。 朝日新聞が「孤族」というのに対して、NHKは「無縁社会」とい…

コミュニティ

ジェラード・デランティ『コミュニティ─グローバル化と社会理論の変容』山之内靖・伊藤茂訳、NTT出版、2006年(原著、2003年) 前回紹介した「地域創成リーダーセミナー」の第2回(セミナーとしては第1回)が、一昨日の土曜日に行われた。今回のセミナーは…

地域再生の罠

久繁哲之介『地域再生の罠』ちくま新書、2010年 昨年から、福岡県筑豊地区で地域創成に携わっている指導者のためのセミナーに関わるようになった(「地域創成リーダーセミナーin福岡」)。 このセミナーは今年で三年目を迎える。本年度は昨日10月2日から…

21世紀の教養

芹沢一也・荻上チキ編・飯田泰之他『日本を変える知─「21世紀の教養」を身に着ける』2009年、光文社 芹沢一也・荻上チキ編・飯田泰之他『経済成長って何で必要なんだろう?』光文社、2009年 経済(学)と思想とは、必ずしも相性が良くない、と感じる。 も…

希望を捨てる勇気

池田信夫『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社、2009年 問題に向き合うということが、最も困難な問題だ、と思う。 問題に置かれた人が少ない、などということではない。 多くの人間が問題に直面し、にっちもさっちもいかなる状況に置かれている。にも関わらず…

生きる意味

上田紀行『生きる意味』岩波新書、2005年 あっという間に12月。相変わらずののんびり更新です。 この間、私は風邪をひいて少し寝込むときもありましたが、皆さんどうかくれぐれも気をつけてください。 「私たちがいま直面しているのは「生きる意味の不況」…

脱貧困の経済学

飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』自由国民社、2009年、9月10日発行 昨日(11月10日)、「個人」と「個人を超えるもの」についてとりあげた。これは、日本近代思想史という歴史的過去の問題なのではなくて、現在の社会の問題でもある。そのことを、…

ひきこもりの国

マイケル・ジーレンジガー『ひきこもりの国 なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか』河野純治訳、光文社、2007年(原著、2006年) やや型にはまった日本観、どこかで耳にした日本人論が続く。読んでいて、新しいことを発見するということは、あまりないか…

子どもへのまなざし

佐々木正美『続 子どもへのまなざし』福音館書店、2001年 先週、気になる事件の地裁判決が言い渡された。2008年3月、JR岡山駅で岡山県職員の男性が18歳の少年に線路に突き落とされて死亡した事件のことである。 岡山地裁は、少年の有期不定期刑としては…

コミュニティを生きる

広井良典『死生観を問いなおす』ちくま新書,2001年 私のつとめている大学ではキャンパス移転事業が進行中だ。私の属する部局(大学内の教育研究組織)もこの4月から新キャンパスに活動の舞台を移す。そのために現在は,通常の業務に加えて研究室の引越作業…

教育の想像力

神野直彦『教育再生の条件——経済学的考察』岩波書店,2007年 昨日(2月1日)は,「想像力」をやや特殊な方面から問題としてしまったかもしれない,と少し反省している。 ごくごく常識的な言葉の用例に従って「想像力」の重要性を確認しておくならば,哲学…

市場と幸福(2)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 昨日に引き続いて,ハーシュマンの本の第20章「民主的市場社会の柱としての社会的紛争」を紹介する。 本論文の初出は…

市場と幸福(1)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 最近の日記(1月14,15,22日)でふれている論点(内発的発展,真言密教など)から,日本の伝統的な文化に基づ…

内部の分裂から外部の分裂へ

鶴見和子『南方熊楠(みなかたくまぐす)』講談社学術文庫,1981年[原著,1978年] 先週(1月14,15日)に引き続き,鶴見和子の著作より。本書は,昭和54年に毎日出版文化賞を受賞した作品である。 「南方は,その生き方においても,関心の方向にお…

内発的発展論

鶴見和子「最終講義 内発的発展の三つの事例」ほか,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 昨日に続いて鶴見(敬称略)の「内発的発展論」を紹介する。 鶴見の「内発的発展論」は,「近代化論」に対するアンチテーゼであ…

僻地から思考する

鶴見和子「南方曼荼羅—未来のパラダイム転換に向けて」,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 もう一昨年前のことになるが,文科省に申請する教育研究のプログラム案を考えていたときに,鶴見和子氏の「内発的発展論」に…

反貧困─余話

中野好夫『スウィフト考』岩波新書,1969年 昨日,湯浅誠氏の著作を紹介した後で,あらためて周囲を見渡すと,関連するニュースや記事があふれていることに気がついた。 アエラ最新刊(08.12.29-09.1.5 No.1)の高村薫氏の連載エセー「平成雑記帳」は,終身…

反貧困

湯浅誠『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』岩波新書,2008年 この日記は,できるだけ著作の言葉そのものにふれて,興味を持った本があれば,実際に手にとって読んでもらえたら,と思ってはじめたものです。 ただ,引用だけにすると,問題が生じる可能性も…

働くことの希望

玄田有史『働く過剰 大人のための若者読本』NTT出版,2005年 数年前のことである。大学院ゼミに,社会人経験のある学部の学生が参加してくれた。その学生が,ゼミ終了日の打ち上げのときに,私の不用意な言葉がきっかけだったと思うのだが,いまの大学生…

「発達障害」の意味すること

松本雅彦・高岡健編『発達障害という記号』批評社,2008年 11月23日にジンメルのエセーを紹介したなかで,発達障害についてふれた。 そこに書いたことの一部を引用する。「余談だが,このブログでも取り上げたことのある「発達障害」という概念も・・,…

個人をつくるもの(2)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 「忘恩の近代的個人主義はいかなる運命をたどるのか」などと,昨日は大それたことを書いてしまった。もちろん,近代的個人主義を否定しようなどと思っているのではなく,個人主義の中身(それ…

個人をつくるもの(1)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 作田啓一氏の文章は,10月19日に『仮構の感動』から「社会化と教養」を取り上げたことがある。本書もそこでふれたテーマに関連する著作であり,文学的素材と社会学的分析を結びつけ,近代…

都会と精神,および発達障害

ジンメル「大都会と精神生活」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 一昨日に引き続き,ジンメルの1913年(第一次世界大戦の直前!)のエセーを紹介する。 ところで,ジンメルという社会学者,十分に説明していないことに気…

教養と社会化

作田啓一「社会化と教養小説」,作田啓一『仮構の感動 人間学の探究』筑摩書房,1990年 作田啓一氏は,1922年に生まれ,京都大学文学部哲学科(社会学専攻)を経て,本書刊行時は甲南女子大学教授。主著の『価値の社会学』(1972年)は,岩波モダンクラ…

思考と文体

斎藤美奈子『誤読日記』朝日新聞社,2005年 斎藤美奈子氏の文体は,いろいろと考えさせられる。 例えば,『モダンガール論』(文春文庫)の文体は,歴史学の標準的な文体とは大いに異なるけれども,斎藤さん(冒頭,斎藤美奈子氏と書いたのだが,斎藤氏とい…