literature

永遠のとなり

白石一文『永遠のとなり』文春文庫、2010年 何回か取り上げたことのある白石一文(2009年9月7日、9日)の、2007年に出た十冊目の作品である。 昭和三三年生まれの主人公とその友人の物語。田舎から東京の大学に出て就職し、それなりの仕事をして、さてこれか…

レディ・ジョーカー

高村薫『レディ・ジョーカー』新潮文庫、2010年(毎日新聞社、1997年、の全面改訂版) 連休、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。 私は、一つだけイベントがありましたが、それ以外はどこにも出かけずに、たんたんと過ごしています。 よい休暇をお過ごしにな…

紀州

中上健次『紀州 木の国・根の国物語』角川文庫、改版2009年(1980年) 本書は、朝日ジャーナルに1977年から78年にかけて連載された、中上健次としては異例のルポルタージュ風作品である。 中上健次は1946年和歌山県新宮市生まれ、1992年に46歳で没した。1976…

草にすわる

白石一文『草にすわる』光文社文庫、2006年 とあるベストセラーの広告に、「生きる意味を探さない」(正確でないかもしれないが・・・)という章題が紹介されているのをみて、もしかしたら、最近のこの日記を続けて読んでいる人に、何か誤解を与えてしまって…

壊れていない部分

白石一文『僕のなかの壊れていない部分』光文社文庫、2005年 白石一文の小説をはじめて読んだ。 ところどころ描かれる男女の場面に嫌悪感を感じる人も多いだろう。主人公の振舞や言葉に理不尽さを感じ、小説の中に入っていけないと感じる人もかなりの数いる…

山頭火と放哉

上田閑照『ことばの実存 禅と文学』筑摩書房、1997年 種田山頭火(1882[明治15]年〜1940[昭和15])と尾崎放哉(1885[明治18]年〜1926[大正15]年)は由律俳句を代表する俳人として有名である。 しかし、その句と較べて、二人の生涯についてはあま…

架空物語を愉しむ権利

チュコフスキー『2歳から5歳まで 普及版』樹下節訳、理論社、2008年 だいぶ前に中学のころからの友人と話をしている時のこと、子育てのために何をしているか、という話になった。 絵本を読むぐらいかな、と言うと、父親として先輩の彼は、本当は絵本はあま…

神話的時間

鶴見俊輔『神話的時間』熊本子どもの本の研究会,1995年 一週間前(4月20日)の日記の終わりで,書名だけを挙げた本である。 まえがきによると,本書は「熊本子どもの本の研究会10周年記念事情で行った鶴見俊輔先生の記念講演,谷川俊太郎氏と工藤直子…

反貧困─余話

中野好夫『スウィフト考』岩波新書,1969年 昨日,湯浅誠氏の著作を紹介した後で,あらためて周囲を見渡すと,関連するニュースや記事があふれていることに気がついた。 アエラ最新刊(08.12.29-09.1.5 No.1)の高村薫氏の連載エセー「平成雑記帳」は,終身…

ゲームの仕事

長嶋有『パラレル』文春文庫,2007年 先週後半から体調を崩し,高熱と痛みをベッドで耐えた。 39度まで熱を出すと,ふだんならきつく感じる37度代の熱でも,楽に感じる。しかし,そういうときに動いて病状を悪化させることもあるというので,ずっと安静…

歴史の忘れ水

古井由吉『野川』講談社文庫,2007年(2004年) 古井由吉は,1937年生まれの,現代日本を代表する文学者である。東京大学文学部独文科修士課程を修了し,大学の教職を経て,71年に『杳子』で芥川賞を受賞,教職を辞して,作家となった。 かれの小説を特徴づけ…