人文社会系の適正な規模とは(続き)

昨日に引き続き、今度は大学院段階における専攻分野別構成をみてみよう。資料は引き続き、「教育指標の国際比較」(平成25年)による。なお、大学院段階については、独の数字はないので、露の例を引く。 日本 英国 仏国 露国 韓国 人文・芸術 9.2 11.4 28.4 …

人文社会系の適正な規模とは

人文社会系の学部の廃止・転換に関する文科省の通知についてどのように考えたらよいのか。この問題を考えるための基本的な事実を確認しておきたい。 文科省の通知とは以下のとおりである。 「人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材…

21世紀のHumanities(続き その2)

「21世紀のHumanities」に関連して。 文科省の高等教育政策に問題がないわけではないけれでも、やはり、日本の人文学の弱さがどこに起因するのかを反省し、進むべき方向性を確認しておくことは、大事なことだと思う。 この問題を考える手がかりとして、ここ…

21世紀のHumanities

昨日、私の所属する大学院が主催する「21世紀のHumanities」というタイトルのシンポジウムに、シンポジストの一人として参加した。時間がたりなくなり、結局、自己紹介の後は、フロアからの質問一件に対する回答しかできず、シンポジストとしては面目ない次…

有色の聖母を見る(21世紀のHumanities 続き)

「なぜ、クリスマスを祝うの?」 「お祭りだから。」 「一体、何のお祭り?」 「キリストが誕生したことの。」 「なぜキリストが生まれたことを祝うの?」 「救い主だから。」 「あなたはキリストが救い主だと信じているの?」 「いや、信じているわけではな…

国立大学から人文社会系学部がなくなってしまう(?)

大学をめぐる出来事がニュースで扱われるようになってきた。 でも、大学に関する出来事(文科省の方針等)がニュースになって伝えられるころには、すでに方針は既定であるため、メディアを通した公共的な議論が大学政策に反映されるということにはならない。…

課題協学にふれて

私が務めている大学では、一年生必修の科目として「課題協学科目」というものがある。 学生は、講堂で授業テーマの説明を聴き、くじびきで順番を決めて、希望のクラスを選択する。1テーマあたり150名のクラスを学部混成で編成する。この150名をさらに50名の…

再開のあいさつ(趣旨の説明)

ながらくこのページを閉鎖していましたが、このたび再公開(再開)することといたしました。今後は、趣旨というほどの明確なことは定めず、時の流れにまかせつつ、徒然に、書きたいことを書きたいと思います。 かつてのように、図書の引用を必ず取り入れると…

断想

この2年、私は何をしてきたのだろう。 精一杯、仕事をしてきたつもりなのだ。 そして、世界は何も変わっていない。 多くの人が亡くなって、 そのことを、私たちは、忘れている。 いずれ、思い出すための企図さえも疎んじられるだろう。 仕事は加速度的に忙…

社会とは何か

故郷が福島であることもあり、福島第一原子力発電所の危機が気になってならない。 震災・原発事故情報を集めようと、はじめてツィッターにも登録し、各所から情報を手に入れるようにしている。「原発ムラ」と呼ばれる、電力会社、研究者、官僚、政治家の利害…

人間形成にとって共同体とは何か─その2

大震災に遭われた皆様に、謹んでお見舞いを申し上げます。 そして今、被曝の不安にある故郷の皆様に、重ねてお見舞い申し上げます。 どうか被害が最小限に留まることを心より祈っております。それにしても、一連の震災報道において明らかになりつつある、こ…

人間形成にとって共同体とは何か—その1

前回、「幻想、他者、移行対象を豊かにする仕組みづくり」のための理論の紹介を予告した。が、取り上げた著作(樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析』光文社、2007年)をよく読んでみると、そのための具体的な記述は少ない。 ちょっと、勘違いをしていたよ…

共同性を維持する現代の社会現象—その2

3月になりました。 悲喜こもごもの季節ですが、新しい年度へのよい準備のときとなりますように。さて、前回と同様、樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析 なぜ伝統や文化が求められるのか』(光文社新書、2007年)の第四章「共同性を維持する現代の社会現…

共同性を維持する現代の社会現象—その1

総務省は25日、2010年10月実施の国勢調査の速報値を公表した。朝日新聞は1世帯あたりの平均人数がはじめて2.5人を下回った(約2.46人)ことに注目し、「孤族化」の傾向が表れたと報道した。 朝日新聞が「孤族」というのに対して、NHKは「無縁社会」とい…

お知らせ

事情により、この日記をながらく放置しておりました。状況が少し変わり、また少しずつ書いていこうと思います。気分一新の意味を込めて、ブログのテーマを変更しました。本日は、とりあえずご報告まで。

コミュニティ

ジェラード・デランティ『コミュニティ─グローバル化と社会理論の変容』山之内靖・伊藤茂訳、NTT出版、2006年(原著、2003年) 前回紹介した「地域創成リーダーセミナー」の第2回(セミナーとしては第1回)が、一昨日の土曜日に行われた。今回のセミナーは…

地域再生の罠

久繁哲之介『地域再生の罠』ちくま新書、2010年 昨年から、福岡県筑豊地区で地域創成に携わっている指導者のためのセミナーに関わるようになった(「地域創成リーダーセミナーin福岡」)。 このセミナーは今年で三年目を迎える。本年度は昨日10月2日から…

ヒンドゥー教の人間学

マドレーヌ・ビアルドー『ヒンドゥー教の<人間学>』講談社、2010年(原著旧版1981年、新版1995年) 前期の途中からこのブログを書くことどころか、見ることさえできなくなりました。 毎年毎年、坂を転がり落ちる雪だるまのように仕事が増えていくのを感じ…

アウシュヴィッツ以後の神

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』品川哲彦訳、法政大学出版局、2009年 イスラエルの神は熱情の神である。イスラエルを愛する民として選んだ神は、イスラエルの民の不忠実に対して責めを与え、預言者を遣わして神への復帰をよびかける。旧約聖書…

永遠のとなり

白石一文『永遠のとなり』文春文庫、2010年 何回か取り上げたことのある白石一文(2009年9月7日、9日)の、2007年に出た十冊目の作品である。 昭和三三年生まれの主人公とその友人の物語。田舎から東京の大学に出て就職し、それなりの仕事をして、さてこれか…

レディ・ジョーカー

高村薫『レディ・ジョーカー』新潮文庫、2010年(毎日新聞社、1997年、の全面改訂版) 連休、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。 私は、一つだけイベントがありましたが、それ以外はどこにも出かけずに、たんたんと過ごしています。 よい休暇をお過ごしにな…

ガリヴァー旅行記を読む

高坂正堯『近代文明への反逆─社会・宗教・政治学の教科書「ガリヴァー旅行記」を読む』PHP研究所、1983年 著者高坂正堯(こうさか・まさたか、1934-1996)は、現実主義の立場から政治についてたびたび発言し、注目を集めた国際政治学者である。京都大学法…

ファンタジーと言葉

アーシュラ・K.ル=グウィン『ファンタジーと言葉』青木由紀子訳、岩波書店、2006年 入学式やオリエンテーションを終えて、いよいよ授業がはじまる時期となりました。 学校というのは、夢によって成り立つ空間だと思います。 個々の夢は社会的な幻想の根か…

哲学的日本を建設すべし

石橋湛山「哲学的日本を建設すべし」(明治四五年六月号『東洋時論』「社論」)、松尾尊兌編『石橋湛山評論集』岩波文庫、1984年 卒業・修了シーズンです。 卒業・修了される皆さんの前途をお祈り申し上げます。 さて、前回(3月22日)の日記の末尾に、「…

センス・オブ・ウォールデン

スタンリー・カベル『センス・オブ・ウォールデン』齋藤直子訳、法政大学出版局、2005年(原著、1972年) ほぼ3ヶ月ぶりです。更新できない日々が続くと、このブログも止めようかとか、あるいはコンセプトを変えようかとか、いろいろと考えないわけではなか…

対話の哲学

村岡晋一『対話の哲学─ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜』講談社、2009年 私たちはいかにして私たちの世界を、そこで大切にされるべき価値観を、共に形成していくことができるのだろうか。(12月27日の最後の引用を受けて。)同じ大学に勤める同僚や同じ…

21世紀の教養

芹沢一也・荻上チキ編・飯田泰之他『日本を変える知─「21世紀の教養」を身に着ける』2009年、光文社 芹沢一也・荻上チキ編・飯田泰之他『経済成長って何で必要なんだろう?』光文社、2009年 経済(学)と思想とは、必ずしも相性が良くない、と感じる。 も…

希望を捨てる勇気

池田信夫『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社、2009年 問題に向き合うということが、最も困難な問題だ、と思う。 問題に置かれた人が少ない、などということではない。 多くの人間が問題に直面し、にっちもさっちもいかなる状況に置かれている。にも関わらず…

人としてあること

坂部恵『和辻哲郎 異文化共生の形』岩波現代文庫、2000年(原、1986年) 第二章の「人としてあること」を紹介する。 冒頭、著者は和辻哲郎の「面とペルソナ」という一文の引用からはじめる。この和辻のエセーは、仮面と人格の関係を主題とした文章である。 p…

生きる意味

上田紀行『生きる意味』岩波新書、2005年 あっという間に12月。相変わらずののんびり更新です。 この間、私は風邪をひいて少し寝込むときもありましたが、皆さんどうかくれぐれも気をつけてください。 「私たちがいま直面しているのは「生きる意味の不況」…