近代による超克

ハルトゥーニアン『近代による超克─戦間期日本の歴史・文化・共同体』梅森直之訳、岩波書店、2007年 だいぶ日にちが経ってしまったが、前回(11月11日)同様、「個人」と「個人を超えるもの」について。 日本思想に関するこの書物を読むと、自分自身にも…

脱貧困の経済学

飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』自由国民社、2009年、9月10日発行 昨日(11月10日)、「個人」と「個人を超えるもの」についてとりあげた。これは、日本近代思想史という歴史的過去の問題なのではなくて、現在の社会の問題でもある。そのことを、…

近代日本と仏教

末木文美士『近代日本と仏教』トランスビュー、2004年 末木文美士氏は、1949年生まれ、東京大学大学院人文科学研究科を経て、現在は同研究科教授。仏教学、日本思想史を専門とする。多数の著作があり、この日記でも、『解体する言葉と世界』を紹介したことが…

紀州

中上健次『紀州 木の国・根の国物語』角川文庫、改版2009年(1980年) 本書は、朝日ジャーナルに1977年から78年にかけて連載された、中上健次としては異例のルポルタージュ風作品である。 中上健次は1946年和歌山県新宮市生まれ、1992年に46歳で没した。1976…

ひきこもりの国

マイケル・ジーレンジガー『ひきこもりの国 なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか』河野純治訳、光文社、2007年(原著、2006年) やや型にはまった日本観、どこかで耳にした日本人論が続く。読んでいて、新しいことを発見するということは、あまりないか…

「待つ」ということ

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書、2006年 この時期、大学の教員はとある書類作りに追われる。毎年というわけではないのだが、そういう順番にあたったときは、なかなかハードだ。 人によっては、そんな仕事には意味がない、といい、どうせ読んでは捨…

偶像について(2)

和辻哲郎「偶像崇拝の心理」、「樹の根」、『偶像再興/面とペルソナ 和辻哲郎感想集』講談社文芸文庫、2007年 『偶像再興』の新版(昭和12年)において和辻は、これを「幼稚な、拙ない感想文の集」とよび、「一時著者は慚愧の情なしにこれらの感想文を見る…

偶像について(1)

和辻哲郎「『偶像再興』序言」、『偶像再興/面とペルソナ 和辻哲郎感想集』講談社文芸文庫、2007年 なかなか更新できない日々が続いています。いろいろと考えた末、本ブログの基本コンセプトを維持しながら、もっと簡略に、そしてもっと本の選択の幅を広げ…

草にすわる

白石一文『草にすわる』光文社文庫、2006年 とあるベストセラーの広告に、「生きる意味を探さない」(正確でないかもしれないが・・・)という章題が紹介されているのをみて、もしかしたら、最近のこの日記を続けて読んでいる人に、何か誤解を与えてしまって…

壊れていない部分

白石一文『僕のなかの壊れていない部分』光文社文庫、2005年 白石一文の小説をはじめて読んだ。 ところどころ描かれる男女の場面に嫌悪感を感じる人も多いだろう。主人公の振舞や言葉に理不尽さを感じ、小説の中に入っていけないと感じる人もかなりの数いる…

『パンセ』を読む

塩川徹也『パスカル『パンセ』を読む』岩波書店、2001年 (*9月2日12時過ぎに一旦アップしたものを、少々書き改めました。) 先週、とある学会に出席しながら、人生において大切な書物とは弁証論の本ではないか、と思った。 さまざまな本を読むとき、私たち…

山頭火と放哉

上田閑照『ことばの実存 禅と文学』筑摩書房、1997年 種田山頭火(1882[明治15]年〜1940[昭和15])と尾崎放哉(1885[明治18]年〜1926[大正15]年)は由律俳句を代表する俳人として有名である。 しかし、その句と較べて、二人の生涯についてはあま…

モダニストとしての空海

渡辺照宏・宮坂宥勝『沙門空海』ちくま学芸文庫、1993年(筑摩叢書版、1967年) 竹内信夫『空海入門 弘仁のモダニスト』ちくま新書、1997年 ある事情から、空海に関心をもち、幾つか本を買い求めた。 空海に関しては、司馬遼太郎の『空海の風景』しか読んだ…

日本人の宗教性

山折哲雄『近代日本人の宗教意識』岩波書店、1996年 「人の生くるはパンのみに由るにあらず、神の口より出づる凡ての言に由る」 これは、荒野において四十日四十夜断食し、悪魔に試みられたイエスのことばとして、よく知られている(新約聖書マタイによる福…

偶像崇拝

M.ハルバータム/A.マルガリート『偶像崇拝 その禁止のメカニズム』大平章訳、法政大学出版局、2007年 だいぶ日が経ってしまったけれども、前回の日記では、想像力が人間にとってきわめて重要な精神の働きで、子どもの成長にとっても不可欠らしい、とい…

架空物語を愉しむ権利

チュコフスキー『2歳から5歳まで 普及版』樹下節訳、理論社、2008年 だいぶ前に中学のころからの友人と話をしている時のこと、子育てのために何をしているか、という話になった。 絵本を読むぐらいかな、と言うと、父親として先輩の彼は、本当は絵本はあま…

子どもへのまなざし

佐々木正美『続 子どもへのまなざし』福音館書店、2001年 先週、気になる事件の地裁判決が言い渡された。2008年3月、JR岡山駅で岡山県職員の男性が18歳の少年に線路に突き落とされて死亡した事件のことである。 岡山地裁は、少年の有期不定期刑としては…

創造と愛

坂口ふみ『信の構造 キリスト教の愛の教理とそのゆくえ』岩波書店、2008年 西洋思想史の授業で、授業の最後に学生の感想等を書いてもらい、終了時に提出してもらうことにしている。 先日の、創世記の第1章を読んだ授業の後では、「神が御自分にかたどって人…

宗教の倒錯

上村静『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』岩波書店、2008年 本書の冒頭に掲げられた問いは、現代の多くの日本人が抱く疑問を表現したものだと思われる。 「<宗教は人を幸せにするためにあるはずなのに、なにゆえその同じ宗教が宗教の名のもとに平…

人間は被造物

田川建三『キリスト教思想への招待』勁草書房、2004年 現代においてとてつもなく出来る学者、といって思い当たる人は、不勉強のせいもあるが、それほどいない。しかし、この本の著者は、まぎれもなくその一人だ。 これまでの田川氏の著作になじんできた…

「目あきのおごり」

ヴァルター・ベンヤミン「ボードレールにおけるいくつかのモティーフについて」『ベンヤミン・コレクションI 近代の意味』浅井健二郎編訳,久保哲司訳,ちくま学芸文庫,1995年 山口昌男「神話的感受性の帰来」『仕掛けとしての文化』講談社学術文庫,1988年…

ギリシア哲学と宗教

コルネリア・J・ド・フォーゲル『ギリシア哲学と宗教』(藤沢令夫,稲垣良典,加藤信朗他訳)筑摩書房,1969年 *生活のリズムを壊し,だいぶご無沙汰してしまいました。なかなかペースのつかめない日々を送っていますが,なんとか継続していこうと思ってい…

ギリシア哲学と現代

藤沢令夫『ギリシア哲学と現代─世界観のありかた』岩波新書,1980年 「哲学」という人間の活動が誕生したのは,古代ギリシア世界においてである。 その哲学的営みを伝える歴史的なテキストは近代になって日本にも伝えられ,多くの人々にギリシア哲学に対する…

おとぎの国の倫理学

チェスタトン『正統とは何か─G.K.チェスタトン著作集1』福田恒存・安西徹雄訳,春秋社,1973年(原著,1908年) ここ最近の選書について,神話なんてものをなぜ今さらこんなに取り上げるのかという感想をもたれているかもしれない。 昨日紹介した鶴見俊…

神話的時間

鶴見俊輔『神話的時間』熊本子どもの本の研究会,1995年 一週間前(4月20日)の日記の終わりで,書名だけを挙げた本である。 まえがきによると,本書は「熊本子どもの本の研究会10周年記念事情で行った鶴見俊輔先生の記念講演,谷川俊太郎氏と工藤直子…

時間の比較社会学

真木悠介『時間の比較社会学』岩波現代文庫,2003年(原著,1981年) 少し間があいてしまったが,前回(4月13日)は,生命論の観点から,人間の「思想」が未来志向的な生き方に関わる側面にふれた。 ただし,誤解のないようにつけ加えておくが,そこでは…

生命を捉えなおす

清水博『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』中公新書,初版1978年,増補版1990年 手元にあるのは,2009年1月25日増補版10版。くり返し刷られているということが,この本の意義を物語っていると思う。 奥付によれば,著者の清水博氏は1932年愛知県生…

政治のことば(2)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 前回(4月6日)に続いて,上の書物から。 著者も記すように,古くから政治の「政」はマツリゴトと訓まれてきた。マツリゴトは「祭事」を連想させる。ひいては,現代においても,政治はマツリゴ…

政治のことば(1)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 新年度がはじまりました。 今までの日記を振り返ってみると,毎回えらそうなタイトルをつけていたと,少し気恥ずかしい思いがするので,この4月からは紹介する書物や論文の題名(あるいはその中…

超越を生きる

木村敏「差異としての超越」,横山博編『心理療法と超越性 神話的時間と宗教性をめぐって』≪心の危機と臨床の知 10≫,甲南大学人間科学研究所叢書,2008年,所収 シリーズ≪心の危機と臨床の知≫は,文部科学省の学術フロンティア推進事業に採択された共同研究…