2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

回帰する歴史

山口昌男『文化の詩学 I』岩波現代文庫,2002年(岩波書店,1983年) 歴史に対する反省は,現代思想における一つの焦点であると思う。いろんな角度から論じることができるが,昨日(8月30日)に引き続いて,本書のなかから,「I オクタビオ・パスと歴史の…

歴史と性格

山口昌男『文化の詩学 I』岩波現代文庫,2002年(岩波書店,1983年) 山口昌男氏の文章については,すでに7月27,28日に『文化と両義性』をとりあげた。 文化人類学の領域で山口氏が現在どのように評価されているのか,詳しくは知らない。私が学生の頃…

ペシャワール会 2

中村哲『ダラエ・ヌールへの道 アフガン難民とともに』石風社,1993年 すでに報道されているように,ペシャワール会の伊藤和也さんの遺体が発見された。NHKオンラインのニュース記事(28日19時46分)には次のようにある。 「亡くなった伊藤さんの遺…

アフガニスタンの悲しみ

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(武井みゆき・渡辺良子訳)現代企画社,2001年 凡例に,本書の説明がある。本書は,イランの映画監督モフセン・マフマルバフ氏が,映画『カンダハール』…

ペシャワール会

中村哲『医者よ,信念はいらない まず命を救え!』羊土社,2003年 アフガニスタンで活動するペシャワール会の日本人職員が拉致されたという。毎日新聞(毎日jp)によれば,「外務省邦人テロ対策室によると、26日午前、アフガニスタン東部ジャララバードで活…

苦悶する組織

テレンス・ディール/アラン・ケネディー『シンボリック・マネジャー』(城山三郎訳)岩波同時代ライブラリー,1997年(新潮社,1983年) 哲学的な議論も大切だが,そんなことを言う前に,普段の生きる場である組織が壊れかかっていてどうしようもない,とい…

他者の欠如

末木文美士『解体する言葉と世界』岩波書店,1998年 本日記でとりあげた「べてるの家」(7月22日,8月12日)や「ラルシュ」(8月22日)の実践のことを思うと,こんなふうに何もしないでいる自分でいいのだろうかと,そんなことを考えないわけにはい…

ダブル・メッセージ

ジャン・バニエ『小さき者からの光』(長沢道子訳)あめんどう,1994年 私が大学4年生の時,バブル経済の泡はまだはじける気配なく,夏休みのおわりでもなおまだ,銀行が採用者を求めている,という話をきくほどだった。 私は,就職活動もせず,何となく大…

流行と不易

中西進『日本語の力』集英社文庫,2006年 昨日(8月20日)の言語の問題を,具体的に日本語に即して考えてみるとどうなるのか,と思って手に取った,肩肘張らずに気楽に読めるエッセーの中に,なかなか気になる言葉が出てきたので,紹介したい。 著者は,…

堕罪としての抽象

ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」,『ベンヤミン・コレクション I 近代の意味』(浅井健二郎編訳・久保哲司訳)ちくま学芸文庫,1995年 ブログ開始から一月を経過しました。 このsonnenblumenの日記は,個人的な教育研究情報をアップするウェ…

人間の世界を再建する

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カッシーラーの議論で,やや違和感を覚えることは,原始的思考とより発達した思考を区別し,人間文化の進歩の有意味性を疑っていないように見える点である。 「原始的思考では,存…

シンボルと人間

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カテゴリー[human]で問題としていたことを,すでにカッシーラーという哲学者が論じている。 本書(原題は An Essay on Man - An introduction to a philosophy of human culture)…

伝統とナショナリズム

アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』加藤節監訳,岩波書店,2000年 63回目の終戦記念日。ナショナリズムは,民衆の情念を基盤とするかのような装いのもとで,つまり,国家による組織的虚構として,成り立っている。 もちろん,こういうからと言っ…

逆転バイバイ

杉山登志郎『発達障害の子どもたち』講談社現代新書,2007年 8月11日に取り上げたこの本をもう一度。前回は,境界知能にかんする箇所からの引用だったが,今回は自閉症にかんする章から。 自閉症の体験世界は,私たちの世界(のあり方,知り方)というも…

歴史の忘れ水

古井由吉『野川』講談社文庫,2007年(2004年) 古井由吉は,1937年生まれの,現代日本を代表する文学者である。東京大学文学部独文科修士課程を修了し,大学の教職を経て,71年に『杳子』で芥川賞を受賞,教職を辞して,作家となった。 かれの小説を特徴づけ…

悩む力と他者への関心

斉藤道雄『悩む力─べてるの家の人びと』みすず書房,2002年 昨日,悩みを保持する能力についてふれた。悩みを解決するのではなく,悩みを保持するということの大切さを,本書の著者斉藤氏も,「べてるの家」の向谷地氏の言葉から引いて,強調している。(「…

内省する力

杉山登志郎『発達障害の子どもたち』講談社現代新書,2007年 発達障害の子どもをもつ親が本来知っておくべきことがじゅうぶんに伝わっていないことに問題を感じた,経験豊かな著者の手による好著。 実例と理論を要領よく取り合わせ,発達障害の子ども(とそ…

ただの人間

モンテーニュ『エセー』(原二郎訳)岩波文庫,全六冊,1966年 北京オリンピックで,賑やかな日々が続きますが,「平和の祭典」の陰で,深刻な問題も起こっています。 安全なところに身を置いて,このような指摘をすることにどんな意味があるのか,とも思い…

意味なき死の意味

宮本久雄・大貫隆・山本巍『受難の意味 アブラハム・イエス・パウロ』東京大学出版会,2006年 長崎・原爆の日である。本書の「はじめに」では,受難の意味を問う理由について,「それは凡そ他者の受難や抹殺の象徴である「アウシュヴィッツ以後」の時代にわ…

死して有る生き方

エックハルト『エックハルト説教集』(田島照久編訳)岩波文庫,1990年 マイスター・エックハルト(Meister Eckhart)は,1260年頃,中部ドイツの貴族あるいは騎士の家系に生を受けた。ドミニコ会に入り,各地で教育を受け,最晩年のアルベルトゥス・マグヌス…

残酷さと優しさ

タラル・アサド『自爆テロ』(苅*田真司訳:「かり」の字は正確には,くさかんむりに列)青土社,2008年 昨日の続き。 以下で論じられている事柄に付け加えるべき言葉はないのだが,このような人間のあり方を理解することで,「マニ教的な二分法的思考」を自…

破壊の戦慄

タラル・アサド『自爆テロ』(苅*田真司訳:「かり」の字は正確には,くさかんむりに列)青土社,2008年 今日は,広島・原爆の日。哲学的な話が続いたので,現実世界との関わりを意識できる文章を引いておこうと思う。タラル・アサドは,1933年,サウジアラ…

人間存在の二重性

上田閑照『実存と虚存』ちくま学芸文庫,1999年 ここ数日問題にしている,人間存在(とりわけ,言葉)の二重性のもっともわかりやすい例は,宗教かもしれない。ただし,宗教それ自体,また宗教学も,その二重性の成り立ちを理論的に語ることは少ないようであ…

見えない彼方

上田閑照『実存と虚存』ちくま学芸文庫,1999年 昨日までの話題を,哲学的に扱っているものはないかと考えて,本書が思い浮かんだ。 上田閑照氏は,1926年生まれで,西洋神秘主義思想(エックハルト)や禅の研究をもとに,独自の宗教思想,人間学を展開して…

アナロジー

キース・J・ホリオーク/ポール・サガード『アナロジーの力 認知科学の新しい探求』(鈴木宏昭/河原哲雄監訳)新曜社,1998年 昨日の「隠喩のない世界を生きる」ということの意味を考えるために,拾い読みをしてみた。 「比喩的なことばの理解についての研…

隠喩の力

ピーター・サットマリ『虹の架け橋 自閉症・アスペルガー症候群の心の世界を理解するために』(佐藤美奈子・門眞一郎訳)星和書房,2005年 人と人との関係が「壊れる」というとき,一体いかなる事態が生じているのか,ということをときどき考えます。 その答…

スープ一杯のつながり

五味太郎・小野明『絵本をよんでみる』平凡社ライブラリー,1999年 絵本作家の五味太郎氏が,絵本・児童書のプロ・小野明氏と対談形式で絵本をよんでいく。取り上げられるのは,ディック・ブルーナ『うさこちゃんとうみ』,バイロン・バートン『よわむしハリ…