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21世紀のHumanities

昨日、私の所属する大学院が主催する「21世紀のHumanities」というタイトルのシンポジウムに、シンポジストの一人として参加した。時間がたりなくなり、結局、自己紹介の後は、フロアからの質問一件に対する回答しかできず、シンポジストとしては面目ない次…

有色の聖母を見る(21世紀のHumanities 続き)

「なぜ、クリスマスを祝うの?」 「お祭りだから。」 「一体、何のお祭り?」 「キリストが誕生したことの。」 「なぜキリストが生まれたことを祝うの?」 「救い主だから。」 「あなたはキリストが救い主だと信じているの?」 「いや、信じているわけではな…

課題協学にふれて

私が務めている大学では、一年生必修の科目として「課題協学科目」というものがある。 学生は、講堂で授業テーマの説明を聴き、くじびきで順番を決めて、希望のクラスを選択する。1テーマあたり150名のクラスを学部混成で編成する。この150名をさらに50名の…

社会とは何か

故郷が福島であることもあり、福島第一原子力発電所の危機が気になってならない。 震災・原発事故情報を集めようと、はじめてツィッターにも登録し、各所から情報を手に入れるようにしている。「原発ムラ」と呼ばれる、電力会社、研究者、官僚、政治家の利害…

人間形成にとって共同体とは何か—その1

前回、「幻想、他者、移行対象を豊かにする仕組みづくり」のための理論の紹介を予告した。が、取り上げた著作(樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析』光文社、2007年)をよく読んでみると、そのための具体的な記述は少ない。 ちょっと、勘違いをしていたよ…

地域再生の罠

久繁哲之介『地域再生の罠』ちくま新書、2010年 昨年から、福岡県筑豊地区で地域創成に携わっている指導者のためのセミナーに関わるようになった(「地域創成リーダーセミナーin福岡」)。 このセミナーは今年で三年目を迎える。本年度は昨日10月2日から…

永遠のとなり

白石一文『永遠のとなり』文春文庫、2010年 何回か取り上げたことのある白石一文(2009年9月7日、9日)の、2007年に出た十冊目の作品である。 昭和三三年生まれの主人公とその友人の物語。田舎から東京の大学に出て就職し、それなりの仕事をして、さてこれか…

ファンタジーと言葉

アーシュラ・K.ル=グウィン『ファンタジーと言葉』青木由紀子訳、岩波書店、2006年 入学式やオリエンテーションを終えて、いよいよ授業がはじまる時期となりました。 学校というのは、夢によって成り立つ空間だと思います。 個々の夢は社会的な幻想の根か…

センス・オブ・ウォールデン

スタンリー・カベル『センス・オブ・ウォールデン』齋藤直子訳、法政大学出版局、2005年(原著、1972年) ほぼ3ヶ月ぶりです。更新できない日々が続くと、このブログも止めようかとか、あるいはコンセプトを変えようかとか、いろいろと考えないわけではなか…

対話の哲学

村岡晋一『対話の哲学─ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜』講談社、2009年 私たちはいかにして私たちの世界を、そこで大切にされるべき価値観を、共に形成していくことができるのだろうか。(12月27日の最後の引用を受けて。)同じ大学に勤める同僚や同じ…

人としてあること

坂部恵『和辻哲郎 異文化共生の形』岩波現代文庫、2000年(原、1986年) 第二章の「人としてあること」を紹介する。 冒頭、著者は和辻哲郎の「面とペルソナ」という一文の引用からはじめる。この和辻のエセーは、仮面と人格の関係を主題とした文章である。 p…

生きる意味

上田紀行『生きる意味』岩波新書、2005年 あっという間に12月。相変わらずののんびり更新です。 この間、私は風邪をひいて少し寝込むときもありましたが、皆さんどうかくれぐれも気をつけてください。 「私たちがいま直面しているのは「生きる意味の不況」…

脱貧困の経済学

飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』自由国民社、2009年、9月10日発行 昨日(11月10日)、「個人」と「個人を超えるもの」についてとりあげた。これは、日本近代思想史という歴史的過去の問題なのではなくて、現在の社会の問題でもある。そのことを、…

ひきこもりの国

マイケル・ジーレンジガー『ひきこもりの国 なぜ日本は「失われた世代」を生んだのか』河野純治訳、光文社、2007年(原著、2006年) やや型にはまった日本観、どこかで耳にした日本人論が続く。読んでいて、新しいことを発見するということは、あまりないか…

「待つ」ということ

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書、2006年 この時期、大学の教員はとある書類作りに追われる。毎年というわけではないのだが、そういう順番にあたったときは、なかなかハードだ。 人によっては、そんな仕事には意味がない、といい、どうせ読んでは捨…

偶像について(2)

和辻哲郎「偶像崇拝の心理」、「樹の根」、『偶像再興/面とペルソナ 和辻哲郎感想集』講談社文芸文庫、2007年 『偶像再興』の新版(昭和12年)において和辻は、これを「幼稚な、拙ない感想文の集」とよび、「一時著者は慚愧の情なしにこれらの感想文を見る…

草にすわる

白石一文『草にすわる』光文社文庫、2006年 とあるベストセラーの広告に、「生きる意味を探さない」(正確でないかもしれないが・・・)という章題が紹介されているのをみて、もしかしたら、最近のこの日記を続けて読んでいる人に、何か誤解を与えてしまって…

壊れていない部分

白石一文『僕のなかの壊れていない部分』光文社文庫、2005年 白石一文の小説をはじめて読んだ。 ところどころ描かれる男女の場面に嫌悪感を感じる人も多いだろう。主人公の振舞や言葉に理不尽さを感じ、小説の中に入っていけないと感じる人もかなりの数いる…

モダニストとしての空海

渡辺照宏・宮坂宥勝『沙門空海』ちくま学芸文庫、1993年(筑摩叢書版、1967年) 竹内信夫『空海入門 弘仁のモダニスト』ちくま新書、1997年 ある事情から、空海に関心をもち、幾つか本を買い求めた。 空海に関しては、司馬遼太郎の『空海の風景』しか読んだ…

日本人の宗教性

山折哲雄『近代日本人の宗教意識』岩波書店、1996年 「人の生くるはパンのみに由るにあらず、神の口より出づる凡ての言に由る」 これは、荒野において四十日四十夜断食し、悪魔に試みられたイエスのことばとして、よく知られている(新約聖書マタイによる福…

架空物語を愉しむ権利

チュコフスキー『2歳から5歳まで 普及版』樹下節訳、理論社、2008年 だいぶ前に中学のころからの友人と話をしている時のこと、子育てのために何をしているか、という話になった。 絵本を読むぐらいかな、と言うと、父親として先輩の彼は、本当は絵本はあま…

子どもへのまなざし

佐々木正美『続 子どもへのまなざし』福音館書店、2001年 先週、気になる事件の地裁判決が言い渡された。2008年3月、JR岡山駅で岡山県職員の男性が18歳の少年に線路に突き落とされて死亡した事件のことである。 岡山地裁は、少年の有期不定期刑としては…

宗教の倒錯

上村静『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』岩波書店、2008年 本書の冒頭に掲げられた問いは、現代の多くの日本人が抱く疑問を表現したものだと思われる。 「<宗教は人を幸せにするためにあるはずなのに、なにゆえその同じ宗教が宗教の名のもとに平…

人間は被造物

田川建三『キリスト教思想への招待』勁草書房、2004年 現代においてとてつもなく出来る学者、といって思い当たる人は、不勉強のせいもあるが、それほどいない。しかし、この本の著者は、まぎれもなくその一人だ。 これまでの田川氏の著作になじんできた…

「目あきのおごり」

ヴァルター・ベンヤミン「ボードレールにおけるいくつかのモティーフについて」『ベンヤミン・コレクションI 近代の意味』浅井健二郎編訳,久保哲司訳,ちくま学芸文庫,1995年 山口昌男「神話的感受性の帰来」『仕掛けとしての文化』講談社学術文庫,1988年…

ギリシア哲学と現代

藤沢令夫『ギリシア哲学と現代─世界観のありかた』岩波新書,1980年 「哲学」という人間の活動が誕生したのは,古代ギリシア世界においてである。 その哲学的営みを伝える歴史的なテキストは近代になって日本にも伝えられ,多くの人々にギリシア哲学に対する…

おとぎの国の倫理学

チェスタトン『正統とは何か─G.K.チェスタトン著作集1』福田恒存・安西徹雄訳,春秋社,1973年(原著,1908年) ここ最近の選書について,神話なんてものをなぜ今さらこんなに取り上げるのかという感想をもたれているかもしれない。 昨日紹介した鶴見俊…

神話的時間

鶴見俊輔『神話的時間』熊本子どもの本の研究会,1995年 一週間前(4月20日)の日記の終わりで,書名だけを挙げた本である。 まえがきによると,本書は「熊本子どもの本の研究会10周年記念事情で行った鶴見俊輔先生の記念講演,谷川俊太郎氏と工藤直子…

生命を捉えなおす

清水博『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』中公新書,初版1978年,増補版1990年 手元にあるのは,2009年1月25日増補版10版。くり返し刷られているということが,この本の意義を物語っていると思う。 奥付によれば,著者の清水博氏は1932年愛知県生…

超越を生きる

木村敏「差異としての超越」,横山博編『心理療法と超越性 神話的時間と宗教性をめぐって』≪心の危機と臨床の知 10≫,甲南大学人間科学研究所叢書,2008年,所収 シリーズ≪心の危機と臨床の知≫は,文部科学省の学術フロンティア推進事業に採択された共同研究…