human

社会の医者

竹内好「インテリ論」1951年,「教養主義について」1949年,『竹内好全集第6巻』筑摩書房,1980年 加藤周一,ノーマ・フィールド,徐京植『教養の再生のために 危機の時代の想像力』影書房,2005年 携わっていた長期の仕事に,ようやく先週,区切りをつける…

シンボルと宗教

ケネス・バーク『文学形式の哲学 象徴的行動の研究』(森常治訳)国文社,1974年(原著,1941年) ケネス・バークは1897年アメリカ,ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれの文学批評家。哲学,言語学,社会学などの学問領域をこえた独創的な批評体系の構築を…

脳と宗教

養老孟司『カミとヒトの解剖学』ちくま学芸文庫,2002年,(法蔵館,1992年) 専門の異なる人が,自分の関心ある研究テーマについて述べているのを読むのは,たいへん興味深い。しかも,それがまったく専門の異なる著名人だと,なおありがたい。自分の考えて…

コミュニティを生きる

広井良典『死生観を問いなおす』ちくま新書,2001年 私のつとめている大学ではキャンパス移転事業が進行中だ。私の属する部局(大学内の教育研究組織)もこの4月から新キャンパスに活動の舞台を移す。そのために現在は,通常の業務に加えて研究室の引越作業…

教育の想像力

神野直彦『教育再生の条件——経済学的考察』岩波書店,2007年 昨日(2月1日)は,「想像力」をやや特殊な方面から問題としてしまったかもしれない,と少し反省している。 ごくごく常識的な言葉の用例に従って「想像力」の重要性を確認しておくならば,哲学…

魂と社会の想像力

ロバーツ・エイヴンス『想像力の深淵へ 西欧思想におけるニルヴァーナ』(森茂起訳)新曜社,2000年 前回(1月27日)の末尾で,「想像力」についてふれた。 それをうけて,やや突飛な展開になるけれども,「想像力」について,ユング派心理学の立場から論じ…

内発的発展論

鶴見和子「最終講義 内発的発展の三つの事例」ほか,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 昨日に続いて鶴見(敬称略)の「内発的発展論」を紹介する。 鶴見の「内発的発展論」は,「近代化論」に対するアンチテーゼであ…

僻地から思考する

鶴見和子「南方曼荼羅—未来のパラダイム転換に向けて」,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 もう一昨年前のことになるが,文科省に申請する教育研究のプログラム案を考えていたときに,鶴見和子氏の「内発的発展論」に…

雀よりも価値がある

新約聖書『ルカによる福音書』第12章 (聖書には,日本聖書協会「新共同訳」「口語訳」など各種の翻訳がある) 年末年始,様々に飛び交うニュースを聴いては,不安や恐ればかりを大きくさせてしまったというようなことはないだろうか。 小泉政権下で構造改…

子どもの本

ぶん:サリー・ウィットマン,え:カレン・ガンダーシーマー 『とっときのとっかえっこ』谷川俊太郎訳,童話館出版,1995年 今年,最後に紹介したい本は,絵本である。 絵本作家の五味太郎氏の『絵本をよんでみる』(平凡社ライブラリー)を紹介したときの日…

働くことの希望

玄田有史『働く過剰 大人のための若者読本』NTT出版,2005年 数年前のことである。大学院ゼミに,社会人経験のある学部の学生が参加してくれた。その学生が,ゼミ終了日の打ち上げのときに,私の不用意な言葉がきっかけだったと思うのだが,いまの大学生…

スコレーを生きる

ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』稲垣良典訳,講談社学術文庫,1988年[原著,1965年] 師走の忙しさの中で,何のために仕事をしているのだろうか,という思いがしばしば浮かんでくる。すると,昨今の経済状況を考えてみれば仕事があるだけましではないか,と…

「発達障害」の意味すること

松本雅彦・高岡健編『発達障害という記号』批評社,2008年 11月23日にジンメルのエセーを紹介したなかで,発達障害についてふれた。 そこに書いたことの一部を引用する。「余談だが,このブログでも取り上げたことのある「発達障害」という概念も・・,…

不機嫌なとき

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 バスを待つのがとても苦手だ。 予定の時刻をすぎてもバスがこない。あとどのくらい待てばバスはくるのか,考えても判らないことを考え,あぁ,バスなど待たなければよかった,別の路線のバスにすればよかっ…

象徴としての神話と言葉

カッシーラー『人間』宮城音彌訳,岩波書店,1953年 ドイツの新カント派系の哲学者として知られるエルンスト・カッシーラーについて,小さな文章を書く機会があったので,その関連で,『人間』を紹介したい。この本については,数ヶ月前(8月17日,18日…

都会と精神,および発達障害

ジンメル「大都会と精神生活」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 一昨日に引き続き,ジンメルの1913年(第一次世界大戦の直前!)のエセーを紹介する。 ところで,ジンメルという社会学者,十分に説明していないことに気…

病める神話・生ける神話(2)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 上記の本の紹介を続けたい。 残されていたのは,個人神話の虚言の有する創造性。つまり,c「虚構性や虚偽性のなかに秘められている創造性」を生み出すc’「生きた神話」である。 …

病める神話・生ける神話(1)

武野俊哉『嘘を生きる人,妄想を生きる人 個人神話の創造と病』新曜社,2005年 著者は,1953年生まれの精神医療の臨床家である。東京医科歯科大学医学部卒業後,病院の院長を歴任した後,スイスのユング研究所に留学して,ユング派分析家資格を取得し,現在…

人生のゲーム

高田康成『キケロ ヨーロッパの知的伝統』岩波新書,1999年 この日記のなかで,しばしば「遊び」を話題にしてきた。 実用的なもの・実学的なものだけに目が向きがちな世の風潮への反発なのだと思う。 注意して欲しいことだが,実用的・実学的なものと「遊び…

ゲームの仕事

長嶋有『パラレル』文春文庫,2007年 先週後半から体調を崩し,高熱と痛みをベッドで耐えた。 39度まで熱を出すと,ふだんならきつく感じる37度代の熱でも,楽に感じる。しかし,そういうときに動いて病状を悪化させることもあるというので,ずっと安静…

子どもの生きる場(2)

矢野智司「子どもの遊び体験における想像的瞬間─体験を反復する創造性のコミュニケーション論」,佐藤学・今井康雄編『子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践』東京大学出版会,2003年 一昨日に引き続き,矢野智司氏の論文の紹介を続けたい。 非…

子どもの生きる場(1)

矢野智司「子どもの遊び体験における想像的瞬間─体験を反復する創造性のコミュニケーション論」,佐藤学・今井康雄編『子どもたちの想像力を育む アート教育の思想と実践』東京大学出版会,2003年 教育学者である矢野智司氏の論文を読むのは,これがはじめて…

別世界の経験

上田閑照『経験と場所』岩波現代文庫,2007年 長田弘『読書からはじまる』NHKライブラリー,2006年 恐れ多い言い方かもしれないが,上田閑照氏の著作を読むと,自分が何か考えようとしていることを,先に形にして,ほら,お前はこういうことを言いたいの…

生きるかなしみ

山田太一編『生きるかなしみ』ちくま文庫,1995年 二日ばかり放っておいたら,トラックバックで悪戯をされました。そこで,トラックバック,ならびにコメント欄を閉鎖しました。不愉快な画面を御覧になってしまった方にお詫び申し上げます。それはさておき・…

自閉症者のことば

ドナ・ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』(河野万里子訳)新潮文庫,1993年 本書の著者ドナ・ウィリアムズは,1963年,オーストラリアに生まれた。本書(原題は Nobody, Nowhere)を1992年に発表し,カバーの紹介によれば,「世界で初めて自閉症の精神世…

言葉をとりもどす

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書,2006年 著者によると,現代は,待つことができない社会である,という。 たしかに,だれも待つことができないようだ。昨日の福田首相の退陣表明も,もう少し待つことができたのなら,と思うのだが・・・ 首相に対す…

ペシャワール会 2

中村哲『ダラエ・ヌールへの道 アフガン難民とともに』石風社,1993年 すでに報道されているように,ペシャワール会の伊藤和也さんの遺体が発見された。NHKオンラインのニュース記事(28日19時46分)には次のようにある。 「亡くなった伊藤さんの遺…

アフガニスタンの悲しみ

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(武井みゆき・渡辺良子訳)現代企画社,2001年 凡例に,本書の説明がある。本書は,イランの映画監督モフセン・マフマルバフ氏が,映画『カンダハール』…

ペシャワール会

中村哲『医者よ,信念はいらない まず命を救え!』羊土社,2003年 アフガニスタンで活動するペシャワール会の日本人職員が拉致されたという。毎日新聞(毎日jp)によれば,「外務省邦人テロ対策室によると、26日午前、アフガニスタン東部ジャララバードで活…

他者の欠如

末木文美士『解体する言葉と世界』岩波書店,1998年 本日記でとりあげた「べてるの家」(7月22日,8月12日)や「ラルシュ」(8月22日)の実践のことを思うと,こんなふうに何もしないでいる自分でいいのだろうかと,そんなことを考えないわけにはい…