human

ダブル・メッセージ

ジャン・バニエ『小さき者からの光』(長沢道子訳)あめんどう,1994年 私が大学4年生の時,バブル経済の泡はまだはじける気配なく,夏休みのおわりでもなおまだ,銀行が採用者を求めている,という話をきくほどだった。 私は,就職活動もせず,何となく大…

シンボルと人間

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カテゴリー[human]で問題としていたことを,すでにカッシーラーという哲学者が論じている。 本書(原題は An Essay on Man - An introduction to a philosophy of human culture)…

逆転バイバイ

杉山登志郎『発達障害の子どもたち』講談社現代新書,2007年 8月11日に取り上げたこの本をもう一度。前回は,境界知能にかんする箇所からの引用だったが,今回は自閉症にかんする章から。 自閉症の体験世界は,私たちの世界(のあり方,知り方)というも…

悩む力と他者への関心

斉藤道雄『悩む力─べてるの家の人びと』みすず書房,2002年 昨日,悩みを保持する能力についてふれた。悩みを解決するのではなく,悩みを保持するということの大切さを,本書の著者斉藤氏も,「べてるの家」の向谷地氏の言葉から引いて,強調している。(「…

内省する力

杉山登志郎『発達障害の子どもたち』講談社現代新書,2007年 発達障害の子どもをもつ親が本来知っておくべきことがじゅうぶんに伝わっていないことに問題を感じた,経験豊かな著者の手による好著。 実例と理論を要領よく取り合わせ,発達障害の子ども(とそ…

ただの人間

モンテーニュ『エセー』(原二郎訳)岩波文庫,全六冊,1966年 北京オリンピックで,賑やかな日々が続きますが,「平和の祭典」の陰で,深刻な問題も起こっています。 安全なところに身を置いて,このような指摘をすることにどんな意味があるのか,とも思い…

アナロジー

キース・J・ホリオーク/ポール・サガード『アナロジーの力 認知科学の新しい探求』(鈴木宏昭/河原哲雄監訳)新曜社,1998年 昨日の「隠喩のない世界を生きる」ということの意味を考えるために,拾い読みをしてみた。 「比喩的なことばの理解についての研…

隠喩の力

ピーター・サットマリ『虹の架け橋 自閉症・アスペルガー症候群の心の世界を理解するために』(佐藤美奈子・門眞一郎訳)星和書房,2005年 人と人との関係が「壊れる」というとき,一体いかなる事態が生じているのか,ということをときどき考えます。 その答…

排除する心

滝川一廣『家庭のなかの子ども 学校のなかの子ども』岩波書店,1994年 昨日に続いて,本書の議論を紹介する。 昨日は,第一部の「家庭のなかの子ども」を話題にしたが,今日は第二部「学校のなかの子ども」から。著者は,村瀬学(7月21日で引用)の論考(…

心というもの

滝川一廣『家庭のなかの子ども 学校のなかの子ども』岩波書店,1994年 やや難解な書物が続いたので,比較的わかりやすいものを取り上げてみたい。滝川一廣氏は,1947年生まれの精神科医。本書刊行時には,名古屋市児童福祉センター「くすのき学園」園長を勤…

精神病理学における<歴史不在> その3

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 さらに本書から,見逃しえぬ思想史上の事例を二つ,引いておきたい。 思想や哲学の専門家などよりも,それ以外の専門をしっかりと身に付けた人の方が,しっ…

精神病理学における<歴史不在> その2

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 本書には,見逃すことのできない史実の記述が散らばっている。いくつか紹介しておきたい。 「[ドイツの精神医学者で,現代精神医学の基礎を造りあげた]エ…

精神病理学における<歴史不在>

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 個人的なことになるが,博士論文でディルタイという哲学者・歴史家を論じた。この思想家を研究することは,たやすい仕事ではなく,いまでも出版された博士…

べてるの家

向谷地生良『「べてるの家」から吹く風』いのちのことば社,2006年 「べてるの家」に関する著作は何冊かある。 その中の一冊,横川和夫『降りていく生き方』太郎次郎社(2003年)から,べてるの家についてざっと紹介すると, 「べてるの家は,浦河赤十字病院…

自閉症という世界

村瀬学『自閉症─これまでの見解に異議あり!』ちくま新書,2006年 東田直樹『この地球にすんでいる僕の仲間たちへ─12歳の僕が知っている自閉の世界』エスコアール,2005年 Aと非Aとを,対立的なものとしてではなく,連続的なものとして見直してみると,…