philosophy

アウシュヴィッツ以後の神

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』品川哲彦訳、法政大学出版局、2009年 イスラエルの神は熱情の神である。イスラエルを愛する民として選んだ神は、イスラエルの民の不忠実に対して責めを与え、預言者を遣わして神への復帰をよびかける。旧約聖書…

センス・オブ・ウォールデン

スタンリー・カベル『センス・オブ・ウォールデン』齋藤直子訳、法政大学出版局、2005年(原著、1972年) ほぼ3ヶ月ぶりです。更新できない日々が続くと、このブログも止めようかとか、あるいはコンセプトを変えようかとか、いろいろと考えないわけではなか…

対話の哲学

村岡晋一『対話の哲学─ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜』講談社、2009年 私たちはいかにして私たちの世界を、そこで大切にされるべき価値観を、共に形成していくことができるのだろうか。(12月27日の最後の引用を受けて。)同じ大学に勤める同僚や同じ…

人としてあること

坂部恵『和辻哲郎 異文化共生の形』岩波現代文庫、2000年(原、1986年) 第二章の「人としてあること」を紹介する。 冒頭、著者は和辻哲郎の「面とペルソナ」という一文の引用からはじめる。この和辻のエセーは、仮面と人格の関係を主題とした文章である。 p…

近代による超克

ハルトゥーニアン『近代による超克─戦間期日本の歴史・文化・共同体』梅森直之訳、岩波書店、2007年 だいぶ日にちが経ってしまったが、前回(11月11日)同様、「個人」と「個人を超えるもの」について。 日本思想に関するこの書物を読むと、自分自身にも…

「待つ」ということ

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書、2006年 この時期、大学の教員はとある書類作りに追われる。毎年というわけではないのだが、そういう順番にあたったときは、なかなかハードだ。 人によっては、そんな仕事には意味がない、といい、どうせ読んでは捨…

偶像について(2)

和辻哲郎「偶像崇拝の心理」、「樹の根」、『偶像再興/面とペルソナ 和辻哲郎感想集』講談社文芸文庫、2007年 『偶像再興』の新版(昭和12年)において和辻は、これを「幼稚な、拙ない感想文の集」とよび、「一時著者は慚愧の情なしにこれらの感想文を見る…

偶像について(1)

和辻哲郎「『偶像再興』序言」、『偶像再興/面とペルソナ 和辻哲郎感想集』講談社文芸文庫、2007年 なかなか更新できない日々が続いています。いろいろと考えた末、本ブログの基本コンセプトを維持しながら、もっと簡略に、そしてもっと本の選択の幅を広げ…

『パンセ』を読む

塩川徹也『パスカル『パンセ』を読む』岩波書店、2001年 (*9月2日12時過ぎに一旦アップしたものを、少々書き改めました。) 先週、とある学会に出席しながら、人生において大切な書物とは弁証論の本ではないか、と思った。 さまざまな本を読むとき、私たち…

偶像崇拝

M.ハルバータム/A.マルガリート『偶像崇拝 その禁止のメカニズム』大平章訳、法政大学出版局、2007年 だいぶ日が経ってしまったけれども、前回の日記では、想像力が人間にとってきわめて重要な精神の働きで、子どもの成長にとっても不可欠らしい、とい…

創造と愛

坂口ふみ『信の構造 キリスト教の愛の教理とそのゆくえ』岩波書店、2008年 西洋思想史の授業で、授業の最後に学生の感想等を書いてもらい、終了時に提出してもらうことにしている。 先日の、創世記の第1章を読んだ授業の後では、「神が御自分にかたどって人…

ギリシア哲学と宗教

コルネリア・J・ド・フォーゲル『ギリシア哲学と宗教』(藤沢令夫,稲垣良典,加藤信朗他訳)筑摩書房,1969年 *生活のリズムを壊し,だいぶご無沙汰してしまいました。なかなかペースのつかめない日々を送っていますが,なんとか継続していこうと思ってい…

ギリシア哲学と現代

藤沢令夫『ギリシア哲学と現代─世界観のありかた』岩波新書,1980年 「哲学」という人間の活動が誕生したのは,古代ギリシア世界においてである。 その哲学的営みを伝える歴史的なテキストは近代になって日本にも伝えられ,多くの人々にギリシア哲学に対する…

おとぎの国の倫理学

チェスタトン『正統とは何か─G.K.チェスタトン著作集1』福田恒存・安西徹雄訳,春秋社,1973年(原著,1908年) ここ最近の選書について,神話なんてものをなぜ今さらこんなに取り上げるのかという感想をもたれているかもしれない。 昨日紹介した鶴見俊…

時間の比較社会学

真木悠介『時間の比較社会学』岩波現代文庫,2003年(原著,1981年) 少し間があいてしまったが,前回(4月13日)は,生命論の観点から,人間の「思想」が未来志向的な生き方に関わる側面にふれた。 ただし,誤解のないようにつけ加えておくが,そこでは…

生命を捉えなおす

清水博『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』中公新書,初版1978年,増補版1990年 手元にあるのは,2009年1月25日増補版10版。くり返し刷られているということが,この本の意義を物語っていると思う。 奥付によれば,著者の清水博氏は1932年愛知県生…

超越を生きる

木村敏「差異としての超越」,横山博編『心理療法と超越性 神話的時間と宗教性をめぐって』≪心の危機と臨床の知 10≫,甲南大学人間科学研究所叢書,2008年,所収 シリーズ≪心の危機と臨床の知≫は,文部科学省の学術フロンティア推進事業に採択された共同研究…

ナチ神話

フィリップ・ラクー=ラバルト,ジャン=リュック・ナンシー『ナチ神話』(守中高明訳)松籟社,2002年 前回紹介したケネス・バークの神話論(3月21日)は,神話に関する議論として珍しい種類のものではないかと思う。学問の営みは,神話がいかに危険なも…

イデオロギーと神話 2

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 前回(3月19日)は,本書に収められたケネス・バークの1947年の論文「イデオロギーと神話」を引用しながら,イデオロギー闘争を克服しようとする知識社会学は,人々から…

イデオロギーと神話 1

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 3月3日に取り上げたケネス・バーグから。 本書は,社会学者J. R. ガスフィールド(Joseph R. Gusfield)の手によって編纂されたケネス・バーグ読本ともいうべき書物。原書…

世界史の牢獄

彌永信美『幻想の東洋 オリエンタリズムの系譜』上下,ちくま学芸文庫,2005年(青土社,新装版,1996年) 前回(2月15日)も取り上げた彌永氏の著者から。ただし,この浩瀚な書物をこの小さな日記でうまく取り扱うのは困難なので,下巻に収められた付論「<…

魂と社会の想像力

ロバーツ・エイヴンス『想像力の深淵へ 西欧思想におけるニルヴァーナ』(森茂起訳)新曜社,2000年 前回(1月27日)の末尾で,「想像力」についてふれた。 それをうけて,やや突飛な展開になるけれども,「想像力」について,ユング派心理学の立場から論じ…

スコレーを生きる

ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』稲垣良典訳,講談社学術文庫,1988年[原著,1965年] 師走の忙しさの中で,何のために仕事をしているのだろうか,という思いがしばしば浮かんでくる。すると,昨今の経済状況を考えてみれば仕事があるだけましではないか,と…

個人をつくるもの(2)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 「忘恩の近代的個人主義はいかなる運命をたどるのか」などと,昨日は大それたことを書いてしまった。もちろん,近代的個人主義を否定しようなどと思っているのではなく,個人主義の中身(それ…

個人をつくるもの(1)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 作田啓一氏の文章は,10月19日に『仮構の感動』から「社会化と教養」を取り上げたことがある。本書もそこでふれたテーマに関連する著作であり,文学的素材と社会学的分析を結びつけ,近代…

象徴としての神話と言葉

カッシーラー『人間』宮城音彌訳,岩波書店,1953年 ドイツの新カント派系の哲学者として知られるエルンスト・カッシーラーについて,小さな文章を書く機会があったので,その関連で,『人間』を紹介したい。この本については,数ヶ月前(8月17日,18日…

廃墟にみえるもの

ジンメル「廃墟」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 拘束や締切のある仕事がつづき,なかなか日記を更新できませんでした。 師走の12月は,昔も今も,たしかに走るような忙しさ。年明けの2ヶ月もそれはかわらず,3月…

人生のゲーム

高田康成『キケロ ヨーロッパの知的伝統』岩波新書,1999年 この日記のなかで,しばしば「遊び」を話題にしてきた。 実用的なもの・実学的なものだけに目が向きがちな世の風潮への反発なのだと思う。 注意して欲しいことだが,実用的・実学的なものと「遊び…

ベイトソン『精神の生態学』より(3)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 ベイトソンの理論において,サイバネティックスと並んでパラドックスのコミュニケーションを支える論理階型論について見ていきたい。 論理階型論は,そもそも数学者ラッセ…

ベイトソン『精神の生態学』より(2)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 昨日,たまたまアンジェラ・アキの「手紙」という歌を聴いた。そのなかに「人生のすべてに意味がある」という歌詞があった。 こうした歌詞を,「説教臭い」と感じる人もい…