philosophy

ベイトソン『精神の生態学』より(1)

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学 改訂第2版』(佐藤良明訳)新思索社,2000年 9月30日,10月1日に取り上げた教育学者・矢野智司氏の考え方や方法の背後には,グレゴリー・ベイトソンがいる。 ベイトソンとは誰か。手元にある『人間学命題集』(…

私とは何か

上田閑照『私とは何か』岩波新書,2000年 我が大学でもいよいよ本日から2学期の授業が始まりました。 本ブログもいままで以上に学生さん向けの書籍紹介という性格を強くするものと思います。どうかよろしく。さて,この日記でもたびたび紹介している本書の…

別世界の経験

上田閑照『経験と場所』岩波現代文庫,2007年 長田弘『読書からはじまる』NHKライブラリー,2006年 恐れ多い言い方かもしれないが,上田閑照氏の著作を読むと,自分が何か考えようとしていることを,先に形にして,ほら,お前はこういうことを言いたいの…

感覚を磨く

見田宗介『現代日本の感覚と思想』講談社学術文庫,1995年 本書は,二部にわかれる。 第一部「現代日本の感覚変容─夢の時代と虚構の時代」は,1990年,東京都写真美術館の開館記念となるオープニング展「東京─都市の視線」のためのカタログ解説として書かれ…

世界をつなぐ(2)

ジンメル「橋と扉」,『ジンメル・コレクション』(鈴木直訳)ちくま学芸文庫,1999年 昨日に続いてジンメルを取り上げる。 「橋と扉」は1909年のエセーであるが,「取っ手」(9月18日参照)と同様の観点から,標題となっている物質的なものの両義的意味…

世界をつなぐ(1)

ジンメル「取っ手」,『ジンメル・コレクション』(鈴木直訳)ちくま学芸文庫,1999年 ジンメル(1858-1918)というユダヤ人社会学者は,実に繊細な視線をとおして,豊穣な洞察を残した。 今日紹介する「取っ手」は,百年以上も前になる1905年のエセーである…

正しく考えること─幸福論(2)

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 昨日(9月13日)に続いて,アランの『幸福論』より。 アランは,1868年にモルターニュ・オ・ペルシェに生まれ,1951年にル・ヴェジネで亡くなった。四十年間,リセ(高等中学校)の哲学教師を務め,シモ…

幸福論(1)

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 今週はいろいろと忙しく,ブログを続ける難しさを感じました。 8月のように更新することはできなくなると思いますが,細く長く続けていきたいと考えていますので,ときどきのぞいてもらえるとうれしく思い…

<かたり>について(2)

坂部恵『かたり 物語の文法』ちくま学芸文庫,2008年(弘文堂,1990年) 「かたり」が問題となるのは,それが人間の大凡の営みを包括する拡がりをもっているからである(本書27頁を参照)。 そこで著者は,主として「はなし」と対比しながら,「かたり」の特…

<かたり>について(1)

坂部恵『かたり 物語の文法』ちくま学芸文庫,2008年(弘文堂,1990年) ここ数日(9月2日,3日)話題にしてきた「物語」の問題は,現代の人文科学においても愁眉の課題である。その一端を,哲学者の文章から確認しておきたい。 「言語をたんに事実の描写…

言葉をとりもどす

鷲田清一『「待つ」ということ』角川選書,2006年 著者によると,現代は,待つことができない社会である,という。 たしかに,だれも待つことができないようだ。昨日の福田首相の退陣表明も,もう少し待つことができたのなら,と思うのだが・・・ 首相に対す…

他者の欠如

末木文美士『解体する言葉と世界』岩波書店,1998年 本日記でとりあげた「べてるの家」(7月22日,8月12日)や「ラルシュ」(8月22日)の実践のことを思うと,こんなふうに何もしないでいる自分でいいのだろうかと,そんなことを考えないわけにはい…

堕罪としての抽象

ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」,『ベンヤミン・コレクション I 近代の意味』(浅井健二郎編訳・久保哲司訳)ちくま学芸文庫,1995年 ブログ開始から一月を経過しました。 このsonnenblumenの日記は,個人的な教育研究情報をアップするウェ…

人間の世界を再建する

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カッシーラーの議論で,やや違和感を覚えることは,原始的思考とより発達した思考を区別し,人間文化の進歩の有意味性を疑っていないように見える点である。 「原始的思考では,存…

シンボルと人間

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カテゴリー[human]で問題としていたことを,すでにカッシーラーという哲学者が論じている。 本書(原題は An Essay on Man - An introduction to a philosophy of human culture)…

意味なき死の意味

宮本久雄・大貫隆・山本巍『受難の意味 アブラハム・イエス・パウロ』東京大学出版会,2006年 長崎・原爆の日である。本書の「はじめに」では,受難の意味を問う理由について,「それは凡そ他者の受難や抹殺の象徴である「アウシュヴィッツ以後」の時代にわ…

死して有る生き方

エックハルト『エックハルト説教集』(田島照久編訳)岩波文庫,1990年 マイスター・エックハルト(Meister Eckhart)は,1260年頃,中部ドイツの貴族あるいは騎士の家系に生を受けた。ドミニコ会に入り,各地で教育を受け,最晩年のアルベルトゥス・マグヌス…

人間存在の二重性

上田閑照『実存と虚存』ちくま学芸文庫,1999年 ここ数日問題にしている,人間存在(とりわけ,言葉)の二重性のもっともわかりやすい例は,宗教かもしれない。ただし,宗教それ自体,また宗教学も,その二重性の成り立ちを理論的に語ることは少ないようであ…

見えない彼方

上田閑照『実存と虚存』ちくま学芸文庫,1999年 昨日までの話題を,哲学的に扱っているものはないかと考えて,本書が思い浮かんだ。 上田閑照氏は,1926年生まれで,西洋神秘主義思想(エックハルト)や禅の研究をもとに,独自の宗教思想,人間学を展開して…

アナロジー

キース・J・ホリオーク/ポール・サガード『アナロジーの力 認知科学の新しい探求』(鈴木宏昭/河原哲雄監訳)新曜社,1998年 昨日の「隠喩のない世界を生きる」ということの意味を考えるために,拾い読みをしてみた。 「比喩的なことばの理解についての研…

隠喩の力

ピーター・サットマリ『虹の架け橋 自閉症・アスペルガー症候群の心の世界を理解するために』(佐藤美奈子・門眞一郎訳)星和書房,2005年 人と人との関係が「壊れる」というとき,一体いかなる事態が生じているのか,ということをときどき考えます。 その答…

精神病理学における<歴史不在> その3

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 さらに本書から,見逃しえぬ思想史上の事例を二つ,引いておきたい。 思想や哲学の専門家などよりも,それ以外の専門をしっかりと身に付けた人の方が,しっ…

精神病理学における<歴史不在>

渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史 病者の光学で見る二〇世紀思想史の一局面』ちくま学芸文庫,2005年 個人的なことになるが,博士論文でディルタイという哲学者・歴史家を論じた。この思想家を研究することは,たやすい仕事ではなく,いまでも出版された博士…