politics

国立大学から人文社会系学部がなくなってしまう(?)

大学をめぐる出来事がニュースで扱われるようになってきた。 でも、大学に関する出来事(文科省の方針等)がニュースになって伝えられるころには、すでに方針は既定であるため、メディアを通した公共的な議論が大学政策に反映されるということにはならない。…

人間形成にとって共同体とは何か─その2

大震災に遭われた皆様に、謹んでお見舞いを申し上げます。 そして今、被曝の不安にある故郷の皆様に、重ねてお見舞い申し上げます。 どうか被害が最小限に留まることを心より祈っております。それにしても、一連の震災報道において明らかになりつつある、こ…

ガリヴァー旅行記を読む

高坂正堯『近代文明への反逆─社会・宗教・政治学の教科書「ガリヴァー旅行記」を読む』PHP研究所、1983年 著者高坂正堯(こうさか・まさたか、1934-1996)は、現実主義の立場から政治についてたびたび発言し、注目を集めた国際政治学者である。京都大学法…

哲学的日本を建設すべし

石橋湛山「哲学的日本を建設すべし」(明治四五年六月号『東洋時論』「社論」)、松尾尊兌編『石橋湛山評論集』岩波文庫、1984年 卒業・修了シーズンです。 卒業・修了される皆さんの前途をお祈り申し上げます。 さて、前回(3月22日)の日記の末尾に、「…

希望を捨てる勇気

池田信夫『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社、2009年 問題に向き合うということが、最も困難な問題だ、と思う。 問題に置かれた人が少ない、などということではない。 多くの人間が問題に直面し、にっちもさっちもいかなる状況に置かれている。にも関わらず…

紀州

中上健次『紀州 木の国・根の国物語』角川文庫、改版2009年(1980年) 本書は、朝日ジャーナルに1977年から78年にかけて連載された、中上健次としては異例のルポルタージュ風作品である。 中上健次は1946年和歌山県新宮市生まれ、1992年に46歳で没した。1976…

『パンセ』を読む

塩川徹也『パスカル『パンセ』を読む』岩波書店、2001年 (*9月2日12時過ぎに一旦アップしたものを、少々書き改めました。) 先週、とある学会に出席しながら、人生において大切な書物とは弁証論の本ではないか、と思った。 さまざまな本を読むとき、私たち…

政治のことば(2)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 前回(4月6日)に続いて,上の書物から。 著者も記すように,古くから政治の「政」はマツリゴトと訓まれてきた。マツリゴトは「祭事」を連想させる。ひいては,現代においても,政治はマツリゴ…

政治のことば(1)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 新年度がはじまりました。 今までの日記を振り返ってみると,毎回えらそうなタイトルをつけていたと,少し気恥ずかしい思いがするので,この4月からは紹介する書物や論文の題名(あるいはその中…

市場と幸福(2)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 昨日に引き続いて,ハーシュマンの本の第20章「民主的市場社会の柱としての社会的紛争」を紹介する。 本論文の初出は…

市場と幸福(1)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 最近の日記(1月14,15,22日)でふれている論点(内発的発展,真言密教など)から,日本の伝統的な文化に基づ…

アレントと政治

ハンナ・アーレント(ウルズラ・ルッツ編)『政治とは何か』(佐藤和夫訳)岩波書店,2004年 10月8日の日記に,近いうちにハンナ・アレント(アーレントとも表記)のことを取り上げたいといっておきながら,取り上げることができないできたが,一昨日の古…

民主主義と教養

M. I. フィンリー『民主主義 古代と現代』(柴田平三郎訳)講談社学術文庫,2007年 フィンリーは,は1912年にニューヨークに生まれ,コロンビア大学で博士号を取得した古代ギリシア史家。1954年にイギリスに渡り,のち帰化する。イギリスへの移住は,マッカ…

国際政治という場

中西寛『国際政治とは何か 地球社会における人間と秩序』中公新書,2003年 日本人の性格はしばしば「島国根性」とよばれるが,それは自分の生きる日本列島という場が同時にまた世界(いわゆる一般的な国々の集まりとしての世界。後で引用するアレントの「世…

指導者像の難しさ

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) あまり話題にしたくはないのだが,しばしばメディアで取り上げられる首相や知事の言動をみていると,リーダーをいかに育てるのかという課題は,私たちの社会…

神話的英雄の形姿

プルタルコス『プルタルコス英雄伝 上』(村川堅太郎編)ちくま文庫,1987年(筑摩書房,1966年) 古層の共同体意識は,神々や英雄の舞台である。 日常的な<はなし>の世界(9月6日参照)では,あまり表だってあらわれることのないこの神話的意識の叙述の…

崩壊した共和国

脇圭平『知識人と政治 ドイツ・1914〜1933』岩波新書,1973年 夜,ふとテレビを付けると,福田総理大臣が辞任を表明したとのニュース。 日本という国の政治の,深い深いところで進行している病のあらわれのような気がする。 責任を負った特定の政党や政治家…

ペシャワール会 2

中村哲『ダラエ・ヌールへの道 アフガン難民とともに』石風社,1993年 すでに報道されているように,ペシャワール会の伊藤和也さんの遺体が発見された。NHKオンラインのニュース記事(28日19時46分)には次のようにある。 「亡くなった伊藤さんの遺…

アフガニスタンの悲しみ

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(武井みゆき・渡辺良子訳)現代企画社,2001年 凡例に,本書の説明がある。本書は,イランの映画監督モフセン・マフマルバフ氏が,映画『カンダハール』…

ペシャワール会

中村哲『医者よ,信念はいらない まず命を救え!』羊土社,2003年 アフガニスタンで活動するペシャワール会の日本人職員が拉致されたという。毎日新聞(毎日jp)によれば,「外務省邦人テロ対策室によると、26日午前、アフガニスタン東部ジャララバードで活…

人間の世界を再建する

カッシーラー『人間─この象徴を操るもの─」(宮城音彌訳)岩波書店,1953年 カッシーラーの議論で,やや違和感を覚えることは,原始的思考とより発達した思考を区別し,人間文化の進歩の有意味性を疑っていないように見える点である。 「原始的思考では,存…

伝統とナショナリズム

アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』加藤節監訳,岩波書店,2000年 63回目の終戦記念日。ナショナリズムは,民衆の情念を基盤とするかのような装いのもとで,つまり,国家による組織的虚構として,成り立っている。 もちろん,こういうからと言っ…

残酷さと優しさ

タラル・アサド『自爆テロ』(苅*田真司訳:「かり」の字は正確には,くさかんむりに列)青土社,2008年 昨日の続き。 以下で論じられている事柄に付け加えるべき言葉はないのだが,このような人間のあり方を理解することで,「マニ教的な二分法的思考」を自…

破壊の戦慄

タラル・アサド『自爆テロ』(苅*田真司訳:「かり」の字は正確には,くさかんむりに列)青土社,2008年 今日は,広島・原爆の日。哲学的な話が続いたので,現実世界との関わりを意識できる文章を引いておこうと思う。タラル・アサドは,1933年,サウジアラ…

「権力核」の不在

飯尾潤『日本の統治構造 官僚内閣制から議院内閣制へ』中公新書,2007年 本書は,現下の日本政治が直面する問題の焦点を理解するための必読書である,と思う。まずは,日本政治に対する著者の問題意識を述べた箇所をざっと取り上げてみよう。まずは,明治憲…