ナチ神話

フィリップ・ラクー=ラバルト,ジャン=リュック・ナンシー『ナチ神話』(守中高明訳)松籟社,2002年 前回紹介したケネス・バークの神話論(3月21日)は,神話に関する議論として珍しい種類のものではないかと思う。学問の営みは,神話がいかに危険なも…

イデオロギーと神話 2

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 前回(3月19日)は,本書に収められたケネス・バークの1947年の論文「イデオロギーと神話」を引用しながら,イデオロギー闘争を克服しようとする知識社会学は,人々から…

イデオロギーと神話 1

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 3月3日に取り上げたケネス・バーグから。 本書は,社会学者J. R. ガスフィールド(Joseph R. Gusfield)の手によって編纂されたケネス・バーグ読本ともいうべき書物。原書…

社会の医者

竹内好「インテリ論」1951年,「教養主義について」1949年,『竹内好全集第6巻』筑摩書房,1980年 加藤周一,ノーマ・フィールド,徐京植『教養の再生のために 危機の時代の想像力』影書房,2005年 携わっていた長期の仕事に,ようやく先週,区切りをつける…

終末のシンボル的意義

武田泰淳『滅亡について 他三十篇』川西政明編,岩波文庫,1992年 大学は今,春休み。 理系の世界ではこの時期,学会が多いと聞いたことがある。文系の私の関わっている学会でも3月末に支部会が開かれる。そうしたものに関わっている大学の教員(当然だが,…

シンボルと宗教

ケネス・バーク『文学形式の哲学 象徴的行動の研究』(森常治訳)国文社,1974年(原著,1941年) ケネス・バークは1897年アメリカ,ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれの文学批評家。哲学,言語学,社会学などの学問領域をこえた独創的な批評体系の構築を…

脳と宗教

養老孟司『カミとヒトの解剖学』ちくま学芸文庫,2002年,(法蔵館,1992年) 専門の異なる人が,自分の関心ある研究テーマについて述べているのを読むのは,たいへん興味深い。しかも,それがまったく専門の異なる著名人だと,なおありがたい。自分の考えて…

世界史の牢獄

彌永信美『幻想の東洋 オリエンタリズムの系譜』上下,ちくま学芸文庫,2005年(青土社,新装版,1996年) 前回(2月15日)も取り上げた彌永氏の著者から。ただし,この浩瀚な書物をこの小さな日記でうまく取り扱うのは困難なので,下巻に収められた付論「<…

思想の原罪性

彌永信美『歴史という牢獄 ものたちの空間へ』青土社,1988年 前回(2月8日)少しふれたように,研究室の引っ越し準備のために,何かしら生活が落ち着かず,この日記も放置してしまいました。 少し期間をおいてしまうと,なかなか本の紹介モードになることが…

コミュニティを生きる

広井良典『死生観を問いなおす』ちくま新書,2001年 私のつとめている大学ではキャンパス移転事業が進行中だ。私の属する部局(大学内の教育研究組織)もこの4月から新キャンパスに活動の舞台を移す。そのために現在は,通常の業務に加えて研究室の引越作業…

教育の想像力

神野直彦『教育再生の条件——経済学的考察』岩波書店,2007年 昨日(2月1日)は,「想像力」をやや特殊な方面から問題としてしまったかもしれない,と少し反省している。 ごくごく常識的な言葉の用例に従って「想像力」の重要性を確認しておくならば,哲学…

魂と社会の想像力

ロバーツ・エイヴンス『想像力の深淵へ 西欧思想におけるニルヴァーナ』(森茂起訳)新曜社,2000年 前回(1月27日)の末尾で,「想像力」についてふれた。 それをうけて,やや突飛な展開になるけれども,「想像力」について,ユング派心理学の立場から論じ…

市場と幸福(2)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 昨日に引き続いて,ハーシュマンの本の第20章「民主的市場社会の柱としての社会的紛争」を紹介する。 本論文の初出は…

市場と幸福(1)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 最近の日記(1月14,15,22日)でふれている論点(内発的発展,真言密教など)から,日本の伝統的な文化に基づ…

内部の分裂から外部の分裂へ

鶴見和子『南方熊楠(みなかたくまぐす)』講談社学術文庫,1981年[原著,1978年] 先週(1月14,15日)に引き続き,鶴見和子の著作より。本書は,昭和54年に毎日出版文化賞を受賞した作品である。 「南方は,その生き方においても,関心の方向にお…

内発的発展論

鶴見和子「最終講義 内発的発展の三つの事例」ほか,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 昨日に続いて鶴見(敬称略)の「内発的発展論」を紹介する。 鶴見の「内発的発展論」は,「近代化論」に対するアンチテーゼであ…

僻地から思考する

鶴見和子「南方曼荼羅—未来のパラダイム転換に向けて」,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 もう一昨年前のことになるが,文科省に申請する教育研究のプログラム案を考えていたときに,鶴見和子氏の「内発的発展論」に…

雀よりも価値がある

新約聖書『ルカによる福音書』第12章 (聖書には,日本聖書協会「新共同訳」「口語訳」など各種の翻訳がある) 年末年始,様々に飛び交うニュースを聴いては,不安や恐ればかりを大きくさせてしまったというようなことはないだろうか。 小泉政権下で構造改…

子どもの本

ぶん:サリー・ウィットマン,え:カレン・ガンダーシーマー 『とっときのとっかえっこ』谷川俊太郎訳,童話館出版,1995年 今年,最後に紹介したい本は,絵本である。 絵本作家の五味太郎氏の『絵本をよんでみる』(平凡社ライブラリー)を紹介したときの日…

反貧困─余話

中野好夫『スウィフト考』岩波新書,1969年 昨日,湯浅誠氏の著作を紹介した後で,あらためて周囲を見渡すと,関連するニュースや記事があふれていることに気がついた。 アエラ最新刊(08.12.29-09.1.5 No.1)の高村薫氏の連載エセー「平成雑記帳」は,終身…

反貧困

湯浅誠『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』岩波新書,2008年 この日記は,できるだけ著作の言葉そのものにふれて,興味を持った本があれば,実際に手にとって読んでもらえたら,と思ってはじめたものです。 ただ,引用だけにすると,問題が生じる可能性も…

働くことの希望

玄田有史『働く過剰 大人のための若者読本』NTT出版,2005年 数年前のことである。大学院ゼミに,社会人経験のある学部の学生が参加してくれた。その学生が,ゼミ終了日の打ち上げのときに,私の不用意な言葉がきっかけだったと思うのだが,いまの大学生…

スコレーを生きる

ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』稲垣良典訳,講談社学術文庫,1988年[原著,1965年] 師走の忙しさの中で,何のために仕事をしているのだろうか,という思いがしばしば浮かんでくる。すると,昨今の経済状況を考えてみれば仕事があるだけましではないか,と…

「発達障害」の意味すること

松本雅彦・高岡健編『発達障害という記号』批評社,2008年 11月23日にジンメルのエセーを紹介したなかで,発達障害についてふれた。 そこに書いたことの一部を引用する。「余談だが,このブログでも取り上げたことのある「発達障害」という概念も・・,…

個人をつくるもの(2)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 「忘恩の近代的個人主義はいかなる運命をたどるのか」などと,昨日は大それたことを書いてしまった。もちろん,近代的個人主義を否定しようなどと思っているのではなく,個人主義の中身(それ…

個人をつくるもの(1)

作田啓一『個人主義の運命─近代小説と社会学』岩波新書,1981年 作田啓一氏の文章は,10月19日に『仮構の感動』から「社会化と教養」を取り上げたことがある。本書もそこでふれたテーマに関連する著作であり,文学的素材と社会学的分析を結びつけ,近代…

不機嫌なとき

アラン『幸福論』(神谷幹夫訳)岩波文庫,1998年 バスを待つのがとても苦手だ。 予定の時刻をすぎてもバスがこない。あとどのくらい待てばバスはくるのか,考えても判らないことを考え,あぁ,バスなど待たなければよかった,別の路線のバスにすればよかっ…

象徴としての神話と言葉

カッシーラー『人間』宮城音彌訳,岩波書店,1953年 ドイツの新カント派系の哲学者として知られるエルンスト・カッシーラーについて,小さな文章を書く機会があったので,その関連で,『人間』を紹介したい。この本については,数ヶ月前(8月17日,18日…

都会と精神,および発達障害

ジンメル「大都会と精神生活」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 一昨日に引き続き,ジンメルの1913年(第一次世界大戦の直前!)のエセーを紹介する。 ところで,ジンメルという社会学者,十分に説明していないことに気…

廃墟にみえるもの

ジンメル「廃墟」,『ジンメル・エセー集』(川村二郎編訳)平凡社ライブラリー,1999年 拘束や締切のある仕事がつづき,なかなか日記を更新できませんでした。 師走の12月は,昔も今も,たしかに走るような忙しさ。年明けの2ヶ月もそれはかわらず,3月…