2009-01-01から1年間の記事一覧

時間の比較社会学

真木悠介『時間の比較社会学』岩波現代文庫,2003年(原著,1981年) 少し間があいてしまったが,前回(4月13日)は,生命論の観点から,人間の「思想」が未来志向的な生き方に関わる側面にふれた。 ただし,誤解のないようにつけ加えておくが,そこでは…

生命を捉えなおす

清水博『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』中公新書,初版1978年,増補版1990年 手元にあるのは,2009年1月25日増補版10版。くり返し刷られているということが,この本の意義を物語っていると思う。 奥付によれば,著者の清水博氏は1932年愛知県生…

政治のことば(2)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 前回(4月6日)に続いて,上の書物から。 著者も記すように,古くから政治の「政」はマツリゴトと訓まれてきた。マツリゴトは「祭事」を連想させる。ひいては,現代においても,政治はマツリゴ…

政治のことば(1)

成沢光『政治のことば 意味の歴史をめぐって』平凡社,1984年 新年度がはじまりました。 今までの日記を振り返ってみると,毎回えらそうなタイトルをつけていたと,少し気恥ずかしい思いがするので,この4月からは紹介する書物や論文の題名(あるいはその中…

超越を生きる

木村敏「差異としての超越」,横山博編『心理療法と超越性 神話的時間と宗教性をめぐって』≪心の危機と臨床の知 10≫,甲南大学人間科学研究所叢書,2008年,所収 シリーズ≪心の危機と臨床の知≫は,文部科学省の学術フロンティア推進事業に採択された共同研究…

ナチ神話

フィリップ・ラクー=ラバルト,ジャン=リュック・ナンシー『ナチ神話』(守中高明訳)松籟社,2002年 前回紹介したケネス・バークの神話論(3月21日)は,神話に関する議論として珍しい種類のものではないかと思う。学問の営みは,神話がいかに危険なも…

イデオロギーと神話 2

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 前回(3月19日)は,本書に収められたケネス・バークの1947年の論文「イデオロギーと神話」を引用しながら,イデオロギー闘争を克服しようとする知識社会学は,人々から…

イデオロギーと神話 1

ガスフィールド編,ケネス・バーグ『象徴と社会』森常治訳,法政大学出版局,1994年 3月3日に取り上げたケネス・バーグから。 本書は,社会学者J. R. ガスフィールド(Joseph R. Gusfield)の手によって編纂されたケネス・バーグ読本ともいうべき書物。原書…

社会の医者

竹内好「インテリ論」1951年,「教養主義について」1949年,『竹内好全集第6巻』筑摩書房,1980年 加藤周一,ノーマ・フィールド,徐京植『教養の再生のために 危機の時代の想像力』影書房,2005年 携わっていた長期の仕事に,ようやく先週,区切りをつける…

終末のシンボル的意義

武田泰淳『滅亡について 他三十篇』川西政明編,岩波文庫,1992年 大学は今,春休み。 理系の世界ではこの時期,学会が多いと聞いたことがある。文系の私の関わっている学会でも3月末に支部会が開かれる。そうしたものに関わっている大学の教員(当然だが,…

シンボルと宗教

ケネス・バーク『文学形式の哲学 象徴的行動の研究』(森常治訳)国文社,1974年(原著,1941年) ケネス・バークは1897年アメリカ,ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれの文学批評家。哲学,言語学,社会学などの学問領域をこえた独創的な批評体系の構築を…

脳と宗教

養老孟司『カミとヒトの解剖学』ちくま学芸文庫,2002年,(法蔵館,1992年) 専門の異なる人が,自分の関心ある研究テーマについて述べているのを読むのは,たいへん興味深い。しかも,それがまったく専門の異なる著名人だと,なおありがたい。自分の考えて…

世界史の牢獄

彌永信美『幻想の東洋 オリエンタリズムの系譜』上下,ちくま学芸文庫,2005年(青土社,新装版,1996年) 前回(2月15日)も取り上げた彌永氏の著者から。ただし,この浩瀚な書物をこの小さな日記でうまく取り扱うのは困難なので,下巻に収められた付論「<…

思想の原罪性

彌永信美『歴史という牢獄 ものたちの空間へ』青土社,1988年 前回(2月8日)少しふれたように,研究室の引っ越し準備のために,何かしら生活が落ち着かず,この日記も放置してしまいました。 少し期間をおいてしまうと,なかなか本の紹介モードになることが…

コミュニティを生きる

広井良典『死生観を問いなおす』ちくま新書,2001年 私のつとめている大学ではキャンパス移転事業が進行中だ。私の属する部局(大学内の教育研究組織)もこの4月から新キャンパスに活動の舞台を移す。そのために現在は,通常の業務に加えて研究室の引越作業…

教育の想像力

神野直彦『教育再生の条件——経済学的考察』岩波書店,2007年 昨日(2月1日)は,「想像力」をやや特殊な方面から問題としてしまったかもしれない,と少し反省している。 ごくごく常識的な言葉の用例に従って「想像力」の重要性を確認しておくならば,哲学…

魂と社会の想像力

ロバーツ・エイヴンス『想像力の深淵へ 西欧思想におけるニルヴァーナ』(森茂起訳)新曜社,2000年 前回(1月27日)の末尾で,「想像力」についてふれた。 それをうけて,やや突飛な展開になるけれども,「想像力」について,ユング派心理学の立場から論じ…

市場と幸福(2)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 昨日に引き続いて,ハーシュマンの本の第20章「民主的市場社会の柱としての社会的紛争」を紹介する。 本論文の初出は…

市場と幸福(1)

アルバート・O.ハーシュマン『方法としての自己破壊 <現実的可能性>を求めて』(田中秀夫訳)法政大学出版局,2004年[原著,1995年] 最近の日記(1月14,15,22日)でふれている論点(内発的発展,真言密教など)から,日本の伝統的な文化に基づ…

内部の分裂から外部の分裂へ

鶴見和子『南方熊楠(みなかたくまぐす)』講談社学術文庫,1981年[原著,1978年] 先週(1月14,15日)に引き続き,鶴見和子の著作より。本書は,昭和54年に毎日出版文化賞を受賞した作品である。 「南方は,その生き方においても,関心の方向にお…

内発的発展論

鶴見和子「最終講義 内発的発展の三つの事例」ほか,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 昨日に続いて鶴見(敬称略)の「内発的発展論」を紹介する。 鶴見の「内発的発展論」は,「近代化論」に対するアンチテーゼであ…

僻地から思考する

鶴見和子「南方曼荼羅—未来のパラダイム転換に向けて」,『鶴見和子曼荼羅IX 内発的発展論によるパラダイム転換』藤原書店,1999年 もう一昨年前のことになるが,文科省に申請する教育研究のプログラム案を考えていたときに,鶴見和子氏の「内発的発展論」に…

雀よりも価値がある

新約聖書『ルカによる福音書』第12章 (聖書には,日本聖書協会「新共同訳」「口語訳」など各種の翻訳がある) 年末年始,様々に飛び交うニュースを聴いては,不安や恐ればかりを大きくさせてしまったというようなことはないだろうか。 小泉政権下で構造改…